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2018.12.29

みなと菫『龍にたずねよ』 戦いの果ての龍との対話に


 『夜露姫』でデビューした新鋭による、戦国ファンタジー児童文学であります。男勝りの姫が人質で送られた先で、彼女の前に現れた、狐と呼ばれる謎の少年――二人の出会いが、戦国の世に奇跡を生むことになります。

 海沿いの青海の国で、男たちに混じって元気に暮らしてきた領主の末娘・八姫。ある日突然、山中にある隣国の萩生に人質として送られることとなった彼女は、萩生に向かう途中に現れた不思議な少年から、これから先は命がけの戦いになると謎めいた言葉をかけられるのでした。

 粗暴で仲の悪い兄弟が治める萩生で、意地の悪い奥方にいびられる暮らしを送ることになった八姫。そんな彼女にとって味方は、先代の領主である「おじじ様」と、彼に仕える下働きの――そして山中で彼女の前に現れた――少年、「狐のゴンザ」こと権三郎のみ。
 辛い中でも彼らとそれなりに楽しい日々を送る八姫ですが――突如、大国である羽田が萩生に侵攻、城兵ほとんどを率いて打って出た領主兄弟は大敗して、萩生は窮地に陥ることになります。

 残された手段は、青海に援軍を請うことのみ。その役目を買って出た八姫は、父への密書を懐に、ゴンザとともに敵兵のうろつく危険な夜の山中を行くことになるのですが……


 戦国時代を舞台としつつ、架空の国を舞台に描かれる本作。主人公が十代の少女ということもあり、賑やかであまり堅苦しくない印象も強い作品ですが(何しろ八姫は愛用の薙刀に「茜ちゃん」なる名前をつけていたりします)、しかしやがて物語は、この時代の過酷な姿を示すことになります。

 戦国大名たちが天下を求めて大軍を率い、華々しくぶつかり合うイメージが強い戦国時代。しかしそれはあくまでもごく一部の話、多くの大名は合従連衡を繰り返し、そして弱ければ見捨てられ、そして攻められるのが習いであります。
 そして攻められれば――そこに生まれるのは無惨な死、であります。

 勇猛な戦いに憧れて無邪気に武器を振り回し、出陣する人々に声援を送っていても、ひとたびその死の姿を眼前にすればそこに生まれる想いは、それまでのものとは大きく変わらざるを得ません。そんな八姫たちの姿は、それまでの彼女たちが明るく賑やかであったからこそ、胸に刺さります。
 そしてそこから敵意を燃やし、自分たちも戦いたいと思うようになるのは、ある意味当然ではありますが――それはそれで、悲しいことというほかありません。その悲しみの姿を、本作は終盤で、意外な形で浮き彫りにすることになります。

 萩生に昔から残る龍の伝説。かつて領主に祀られていたという龍の力を求めて、八姫とゴンザは山の奥に向かうことになります。そして苦難の果て、ついに対面した龍が語る真実とは、そして救いの代償とは……
 果たしてその代償を払ってまで、戦いを繰り返す人間たちを救う意味があるのか? 龍の語る言葉からは、そんな想いが胸に浮かびます。しかしそれと同時に、これまで物語で描かれてきたものこそが、その答えであり――登場人物たちの想いを力強く肯定する姿は、なかなかに感動的であります。


 ただし、こうして物語で描かれた様々な要素が、うまく収まるべきところに収まっているかはいささか疑問が残るところではあります。
 特にエピローグは、その前に描かれた龍との対話の内容を考えれば、そこに至るまでの道を、もう少し丁寧に描くべきではなかったのか――と強く感じます。

 もちろん、波瀾万丈の戦国ファンタジーとして読む分には、本作はキャラクターも、物語展開も、実に楽しい作品ではあります。しかし同時に、それに留まらない、その先にあるものの姿を垣間見せた以上は、もう少しそこに踏み込んで欲しかった――というのは贅沢な望みでしょうか。


『龍にたずねよ』(みなと菫 講談社)

龍にたずねよ

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