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2019.01.19

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第10章の4『瓢箪お化け』 第10章の5『駒ヶ岳の山賊』 第10章の6『首無し鬼』


 北から来た美少女陰陽師の戦いを描く本作の第10章の後半のご紹介であります。これまでとは趣向を変えた箱根編もいよいよ佳境、倉田屋徳兵衛のお供をして箱根にやってきた百夜を迎えるのは温泉――だけではなく、もちろん怪異と、そして悪人たちとの戦いであります。

『瓢箪お化け』
 芦之湯に流れる怪異の噂――阿字ケ池弁天の杜に、瓢箪の形をした白いお化けが出没するというのであります。そこでおかしな気配を感じていた左吉は、百夜の命で肝試しに行く羽目になるのですが、果たして白いお化けに追われ、羽織を引っ張られるのでした。
 左吉の目撃譚からお化けの正体を察知して弁天社を訪れた百夜が明かす真実は……

 本シリーズの王道ともいうべき、怪異の正体探しが中心となる本作。手足を生やした瓢箪のような姿のお化けとはなかなかユーモラスですが、しかし夜道を追いかけられたら怖すぎる相手なのはいうまでもありません。
 この瓢箪、上側の膨らみが細長く、正面が平らという少々変わった形、そして下の膨らみには何やら文字のような模様が描かれているというのですが――そこから正体を推理するのは我々には困難ですが、百夜、そして徳兵衛ならではの推理には納得であります。

 しかし本作のクライマックスは、その正体を解き明かすために百夜が行った口寄せでの、左吉のリアクション。普段の脳天気さ、軽薄さとは裏腹の、情に厚い彼の姿が印象に残ります。
 そしてこの一件のきっかけとなった相手を退治することを宣言する百夜ですが――その成り行きは次回に。


『駒ヶ岳の山賊』
 瓢箪お化け出現のきっかけが、山賊の跳梁にあると知り、仇討ちを決意した百夜。しかし相手は箱根山中にいくつもの砦を構え、30名以上の手下を従えた凶悪な連中であります。数で遙かに勝る相手に対する、百夜の目論みとは……

 というわけで、前作を受けて山賊退治に立ち上がった百夜ですが、一人一人の戦闘力はともかく、数の上では敵とは相当の差があります。ここは旅先ということもあり、彼女の味方となる(だけの力を持つ)人間はいないのであります。人間は。

 ……と書いてしまえば想像はつくかと思いますが、ここで繰り広げられるのは、百夜が怪異を退治するのではなく、百夜と怪異が山賊を退治するという変則パターンのお話。
 これに関しては文字通りの自業自得とはいえ、恐怖の一夜を経験した挙げ句に百夜に成敗され、死ぬよりも恐ろしい目に遭わされる連中には、ほんのちょっぴりだけ同情であります。


『首無し鬼』
 箱根の麓、小田原の西の集落に、30年ぶりに出現した首のない大鬼。6メートル余りの黒い巨躯で、どこから出すのか箱根の山に向かって咆吼を上げる鬼に手を焼いた村人は、偶然帰路に通りかかった百夜に調伏を依頼するのでした。
 その正体は簡単に見抜いた百夜ですが、何故いま、そして何のために鬼は出現したのか? 鬼を追った百夜たちが見たものは……

 箱根編のラストを飾るのは、またもや奇妙な外見の怪異を巡る物語。鬼はこれまでも何度かシリーズに登場しましたが、今回は首のない鬼で、それが夕方に現れて咆吼を上げるというのですから(そしてそれがその村でしか聞こえないというのが実に面白い)、そのインパクトはかなりのものがあります。
 しかし物語の中心となるのは、鬼との対決ではなく、その鬼が出現した理由探しというのが、やはり本シリーズらしいところでしょう。正直なところ、終盤の展開はこれまでのエピソードと重なるところがあるのはちょっと気になるところですが……

 しかし、ラストに待ち受けているのは大事件の予感。果たして江戸で何が――そこで描かれるシリーズ最大の激闘については、また次回にご紹介いたします。


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