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2019.01.30

『どろろ』 第四話「妖刀の巻」

 行商人の少女・お須志と出会ったどろろと百鬼丸。その直後、数多くの人間を斬殺した人斬り・田之介と遭遇し、辛うじて退けた百鬼丸だが、刀に触れたどろろが操られてしまう。その所業も知らず、生き別れの兄であった田之介との再会を喜ぶお須志。しかし田之介は妖刀への執着を捨てることなく……

 琵琶丸とはいつの間に別れたか、再び二人旅のどろろと百鬼丸。雨が降ってきた中、濡れるのも構わず立ち尽くす(皮膚の感覚は戻ったのかと思っていましたが――あるいはそれ故にか)百鬼丸に声をかけたのは今回のヒロイン・お須志であります。粗末な着物を着ながらも、どろろの目から見ればいいとこのお嬢さんらしさが消えないという彼女は、元々は名のある家の出とのことで、戦に行った兄を待っているというのですが……

 と、その時響きわたった悲鳴に駆けつけてみれば、そこ待ち受けていたのは無数の斬殺死体と――そしてその中に刀を手に立つ白髪の男・田之介。どろろと百鬼丸にも襲いかかってきた田之介の鋭い太刀筋に、さしもの百鬼丸も苦戦し、崖に追いつめられるのですが――百鬼丸は咄嗟に作り物の方の脚に貫かせて刀を奪い、田之介は勢い余って崖下に消えるのでした。

 そして百鬼丸に代わり、刀が刺さったまま外れた脚を取りに行くどろろですが――その刀を手にしたどろろの様子がおかしくなります。そして百鬼丸の方も、義手の刃を再び露わにすると、そんなどろろに襲いかかるではありませんか。
 実は百鬼丸の「眼」に映るのは、赤い色に輝く――すなわち妖の証である――刀。その赤しか見えぬのか、容赦なく襲いかかる百鬼丸から逃げ出したどろろですが、しかし妖刀に操られるままに、(未遂で済んだものの)周囲の村人にまで襲いかかるのでした。

 一方、倒れた田之介を見つけて驚くお須志。まあ予想通りというべきか、田之介こそはお須志の兄だったのであります。以前とは変わり果てた姿ながら、それでもいまや唯一の肉親となった彼との再会を喜び、思い出話など語りかける彼女ですが、しかし田之介は上の空。彼の心に浮かぶ思い出は、あの妖刀との地獄のような出会いでありました。

 武士として仕官しながらも、冷酷無惨な主の命で、城を造った大工たちの口封じを命じられた田之介。無実の人々を殺すことはできないと一度は拒否した彼に対し、主は嘲りの言葉とともに一本の錆刀を投げ与えます。
 主命を果たせぬのであれば腹を切れという言葉に逆らえず、倉に眠っていたというその刀「似蛭」を手に、ついに大工の一人を殺める田之介。そして歯止めを失ったように大工たちを斬っていくうちに、刀から錆は消え、そして田之介の目には狂気の光が浮かびます。そしてこれだけでは足りぬと、ついには主を(そして恐らくは周囲の家来たちも)その手に掛けた田之介は、呪われた人斬りとして放浪し――一度は奪われた妖刀を再び求めていたのであります。

 そんな中、妖刀に操られるまま、お須志と田之介のいる町にやってきたどろろと、その前に立ちふさがる百鬼丸。再び容赦なく襲いかかる百鬼丸の攻撃を、辛うじて躱すどろろですが――しかしついに百鬼丸の一撃が、どろろの手から妖刀を弾き飛ばします。しかし、その妖刀を掴んだのは田之介――お須志の悲痛な叫びも意に介することなく、田之介と百鬼丸は再び激突することになります。
 田之介の猛攻に追いつめられる百鬼丸。しかし一瞬の交錯の末、地に伏したのは田之介の方でした。折れた妖刀を手にしたままで……

 と、突然苦しみ出した百鬼丸の顔から落ちた作り物の耳。実はこの妖刀も鬼神の一体だったのですが――奪われた耳を取り返した百鬼丸が最初に聴いたものは、降り続く雨音と、お須志の悲痛な泣き声なのでした。


 『どろろ』で「妖刀」といえばこれ、という妖刀・似蛭(このアニメ版でもこの表記かは不明ですが、とりあえず原作に倣います)。時代劇にニヒルって――とか、長いこと倉に入っていた刀が百鬼丸の体を食う暇があったのかしら、とか余計なことを言いたくなりますが、まだほとんどの感覚が戻っていない百鬼丸が、それゆえに妖刀に操られるどろろに容赦なく襲いかかるのは、このアニメ版ならではのユニークな展開でしょう(もっとも、どろろの魂の色は見えているはずなので、刀を狙っていたのだはと思いますが)。

 一方、田之介とお須志のドラマは、原作に比べるとちょっと掘り下げ不足の印象で、画の方もそろそろ疲れが感じられます。
 しかし、前番組のように自分自身の言葉で語るわけではなく、ただ持つ者を凶行に走らせる――それ故に見ようによっては持った者の意志にも見える――妖刀の不気味さは、それを生み出した人の心の醜さとともに、十分に描かれていたのではないかと思います。



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