『どろろ』 第三話「寿海の巻」
侍の過去を捨て、医師として人々を救っていた寿海。ある日、川に流れ着いた無惨な姿の赤子を拾った彼は、赤子を救うことを決意し、彼に体と戦う術、百鬼丸の名を与える。しかし何故か襲ってくる妖怪を容赦なく殺していく百鬼丸に心を痛める寿海。そんな中、ある妖怪を倒した百鬼丸の体に変化が……
冒頭とラスト以外、モノクロというかほとんど色のないビジュアルで描かれる今回は、百鬼丸と彼の育ての親の寿海の過去編です。
かつて斯波氏に仕えていながらも、戦で殺した、いや捕らえた相手を磔にして晒し、あるいは磔に悲しむその親族たちまで殺していくような所業に絶望し、海に身を投げた寿海。そこで大陸の船に拾われて海を渡った彼は、義手義足を作る技を学んで帰ってくると、小さな診療所を開き、無償で人々を助ける毎日を送るようになります。
そんな寿海を献身的に助けるのは、幼い頃に彼に義足を与えられた青年・カナメ。しかしある日、寿海が父を磔にしたことを知ってしまった彼は、一度に怒りをぶつけるものの、なおも人々を救おうとする寿海を殺すに殺せず、「あなたは俺を救えない」と義足を捨てて去っていくのでした(きっと再登場するのだろうなあ)。
そんな逃れられない己の過去の所業に絶望していた寿海が、河原で見つけたもの――それは小舟に乗せられてどこかから流れ着いた、無惨な赤子でありました。しかしそんな赤子から生きたいという意思を感じた寿海は、赤子を育てることを決意します。
そして六年後、義手義足をはじめとして全身に寿海製の人工の体を付けた子供は、常人も及びもつかないような身体能力を見せるようになります。彼を育てることに生きがいを感じるようになった寿海は、この世の鬼よりも恐ろしいものに負けることなく超えていけと、百鬼丸という名前を与えるのですが……
ある日百鬼丸を襲う見たこともないような鉤爪を持った獣・鎌鼬。寿海の助けで難を逃れた百鬼丸ですが、その後ももののけたちは百鬼丸につきまとい、寿海は百鬼丸に身を守るための技を叩き込むことになります。
その甲斐あって、襲い来るもののけたちを次々と屠っていく百鬼丸ですが――彼は自分の痛みを感じることがない代わりに相手の痛みを感じることなく、次々と無惨に相手の命を奪っていくのでした。その姿に、寿海はまたもや過ちを犯してしまったのかと悩むことになります。
そんなある日、わりとプレデター似の、長い舌を持つ妖怪に襲われ、これを返り討ちにする百鬼丸。すると彼の右の義足が外れ、下から生身の(ただし皮膚のない)足が生えてきたではありませんか! さすがに驚く寿海ですが、百鬼丸が妖怪たちに肉体を奪われたことに思い至ると、腕の仕込み刀などを与え、赤子の時に身に着けていたお守り袋を渡すと、百鬼丸を旅に送り出すのでした。
結局殺生を教えただけだったと悔やむ寿海。しかし百鬼丸は名残を惜しむかのように寿海の顔に触れて……
時は前話の続きの時間軸に戻り、百鬼丸の運命を悟るどろろと琵琶丸。鬼神が人間の(赤子の)体の一部を食っても腹の足しにはならないだろう、とよく考えたらもっともなことを言い出すどろろですがそれはさておき――無頓着に焚き火に足を踏み入れた百鬼丸は、生身のほうの足に何かを感じて足を引っ込めます。どうやら前回万代さまを倒して戻ってきたのは痛覚――いや感覚を司る神経だったようです。
そしてそんな百鬼丸の姿を知らず、しかし彼の身を案じながらも、寿海は今日も戦場の亡骸に義手義足を与えて全き姿に戻してから手を合わせる日々を送り……
冒頭に述べたように、本編のほとんどが(冒頭の寿海の過去と、ラストの現在の場面を除き)色のない世界で描かれる今回。それは過去を意味する演出かと思いますが、その中で百鬼丸のあの視界のみ、色がついて描かれるのが印象に残ります。
さて、お話の方は、百鬼丸の過去編であると同時に、サブタイトルのとおり寿海という男の姿を描く物語でもあります。自分の過去の所業を悔い、人々に治療を――五体を与える暮らしを送るという彼の設定はこのアニメ版オリジナルかと思いますが、百鬼丸を挟んで醍醐景光とは鏡合わせのような存在であるのは実に面白いと思います。
自分の未来のために百鬼丸の体を奪った男と、自分の過去のために百鬼丸に体を与えた男――しかしそんな寿海でも心まで与えられないというのが何とも切ないところであります。おそらくは心は、百鬼丸が旅の――どろろとの旅の中で手に入れていく、いや育てていくものなのでしょう。
そして気になるのは以前からちらちらと描かれている多宝丸の姿。単なるボンボンではなさそうですが……
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