和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第2巻 劍客兵器の正体と来たるべき「未来」
明治16年の北海道を舞台に描かれる、流浪人の新たな物語、待望の第2巻であります。思わぬ運命の悪戯から妻・薫の父の生存を知り、北海道に渡ることになった剣心一行。しかしその頃函館山には謎の敵・劍客兵器が出現、この巻ではついに剣心と彼らが対峙することになるのですが……
薫との間に一子・剣路をもうけ、平和に暮らしていた剣心。しかし故あって神谷道場に引き取った少年・明日郎が町で悶着を起こした相手が残した荷物の中に、死んだはずの薫の父が函館山を背景に映っていたことから、剣心一家は明日郎たちとともに、函館に向かうことになります。
しかし剣心たちは知らぬことながら、その函館山ではとんでもない事態が進行中。突然山に現れて占拠したわずか五人の男たちに、警察が、いや軍隊までもが壊滅させられたのです。自分たちを「劍客兵器」と呼ぶ彼らの一人・凍座白也に対し、あの斎藤一が単身挑むのですが……
そんな第1巻の内容を受けて展開するこの巻は、いよいよバトルにギャグにと、るろ剣の本領発揮という印象であります。
函館到着早々に明日郎が起こした騒動の中に飄然と現れたあの男――に対する剣心のひどすぎるギャグ(しかもその直前に彼のことを語っておいてというのが実に可笑しい)あり、懐かしの人物との再会あり、そして劍客兵器と斎藤一の死闘あり……
と、次から次へと展開していく物語にこちらは嬉しくなるばかり。内容やテンポ的にはこれでもまだ序の口という気もしますが、それでも出し惜しみなし、という印象であります。
そして出し惜しみなし、といえばこの巻で描かれる剣心と凍座との対峙を通じて、早くも謎の存在であった劍客兵器たちの正体と目的が明らかになるのには驚かされます。
その詳細はここでは伏せておきますが、思わぬ歴史を背景にしたスケールの大きさに驚かされるとともに、なるほど、こういう連中であれば、これまで作中で繰り広げられた戦いに登場しなかったのも納得できるわい、と納得であります。
その来歴など、もちろんトンデモないと言えばそれまでなのですが――そんな印象すら「真偽の程はもはや儂等でも確かめようがない」と凍座に語らせることで煙幕を張ってしまうのは、実にうまい描き方と感心させられます。
そして感心といえば、そんな彼らの目的であります。
彼ら劍客兵器の行動は、常人から見れば明らかに目的と手段が転倒していると感じられます。しかし他の作品にあるような、とにかく戦争が大好きなウォーモンガーでも、強い相手と戦いだけというバトルマニアでもなく、これまでにあまりないものとなっているのが実にうまい、と言うべきでしょう。
そしてそんな彼らの正体と目的は、おそらくは物語内容と同じくらい、本作の時代背景と密接に結びついていくことになるのでしょう。文明開化の一方で、富国強兵により、これまでにない外国との戦争に足を踏み入れていく日本の姿に……
そんな「未来」の姿も予感させるこの巻の内容ですが、少々残念だったのは、その未来の象徴である明日郎たち三人の少年少女の立ち位置がまだはっきりとしない点でしょうか。
もちろん、これだけの大物たちが次々と登場する中で存在感を急に発揮しろというのも難しい話ですが(先輩である弥彦ですら身を引いたこともあり……)、おそらく物語の中で大きな存在となるであろう彼らの活躍には期待したいところです。
そしてもちろん期待するといえば、前作のキャラの再登場も楽しみなところ。この巻では、北海道編スタートから気になっていたあの男がチラリと姿を見せてくれた(ある意味ニアミス状態なのが心憎い!)のに、グッときたところであります。
そしてある意味過去キャラというべきか――恥ずかしながら名前が変わっていたので気付くのが遅れましたが――北海道といえばあの男がいた! という人物までも姿を見せ、心は躍るばかりであります。
そしてさらなる劍客兵器までもが登場、これがまた実にるろ剣らしいビジュアルと技にニコニコさせられて――と、楽しみばかりな本作。この先いかなる戦いを、そしていかなる未来を見せてくれるのか、期待は膨らみます。
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