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2019.02.09

TAGRO『別式』第4巻 崩れていく彼女たちの関係、転落していく物語


 江戸を騒がす剣術自慢の娘たち――別式の姿を描く物語も、この巻で急展開を遂げることになります。別式仲間の一人の死をきっかけに、崩れていく――いや、隠されていたものが明らかになっていく彼女たちの関係。物語は悲劇に向かって止まるところを知らず、一直線に突き進んでいくことになります。

 剣術の達人にして面食いの別式・佐々木類を中心に集まった個性豊かな別式たち――類を密かにライバル視する優等生の魁、実は女装男子である切鵺、占い師にして二刀流の達人である刀萌。
 様々な縁から出会い、強い絆に結ばれた彼女たちは、何かと類に絡む(そして魁の憧れの人である)不良侍の九十九も含めて、江戸で騒々しくも楽しく暮らしていたのですが――いつまでも続くかに見えたこの日々は、唐突に終わりを告げることになります。

 実は妹の身請けの金を稼ぐため、暗殺者という裏の顔を持っていた刀萌。凄腕の剣士であり、裏の世界で暗躍するキツネ目の男・岩渕源内暗殺の依頼を受けた彼女は、源内との斬り合いを優位に進めるのですが――しかし病に蝕まれていたその体が、決定的な瞬間で彼女を裏切ることになります。

 彼女の無惨な死を知った九十九、そして類。突然の刀萌の死に衝撃を受ける二人ですが、しかし悲劇はまだ終わりません。
 予てより因縁を持っていた源内を執念で追いかけ、ついに江戸市中で追い詰めた九十九。しかしその場に何も知らぬまま居合わせた類の一瞬の隙を突いて、源内の刃が……


 これまで、コミケやサッカーなどなど、現代の風物をアレンジしたアレコレが次々と飛び出す、時代劇パロディ的な物語を描きながらも、折々で「重い」「辛い」展開が顔を出していた本作。
 もちろん、その重さ辛さは、物語の冒頭――隻眼の類と切鵺が敵として対峙するという場面で既に予告されていたとも言えますが、しかしいざ怒濤の如く悲劇が連鎖していく姿を見れば、ついに来てしまったか、と胸が塞がる想いがいたします。

 思えば本作の登場人物のほとんどは、大なり小なり、胸に秘めた想いを――ある種の歪みや屈託を抱えてきました。
 剣の腕や九十九を巡り、類にコンプレックスを抱いてきた魁。周囲には惚れた男と偽って両親の仇である源内を追ってきた切鵺。そして暗殺者である以上に、目を背けたくなるような無惨な過去を背負った刀萌。

 そんな中、その腕っ節と驚異的な無神経さによって、ほとんど唯一そのような想いを背負ってこなかった類こそが、彼女たちを繋ぎ止める役割――本作流に言えば団子の串――を務めていたといえるかもしれません。
 しかしこの巻において、彼女もまた心身に深い傷を負い、大きな影を背負うことになります。それはあるいは、本作が決定的に悲劇へと転がり落ちていくことの象徴、いや原因なのかもしれません。類からその強烈に陽性な個性が失われていくことこそが……


 これまでに比べると、冒頭からラストに至るまで一気呵成に、目まぐるしいほどの早さで展開していくこの第4巻。あるいはそれには別の理由もあるのかもしれませんが、しかしこの「転落」を描くには、むしろ必然とも言うべき勢いにも感じられます。

 そしてその果て、この巻のラストで待ち受けているのは、あまりにも意外で、無惨で、無意味なもう一つの死。まさかここでこんな形で退場するとは思わなかったある人物の死によって、物語はもはや止まらない勢いで、奈落に向かって走り出したように感じられます。
 もはや元凶(あるいは引き金)である源内を倒したところで止まるとは思えないこの悲劇がどこに向かうのか、そしてその中で類は何を見るのか。やはり冒頭で約束されたままの形で、物語は終わってしまうのか……

 ひどく辛いのに目が離せない、目を離したら絶対後悔する――いま一番先が気になる作品であります。


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