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2019.02.06

『どろろ』 第五話「守り子唄の巻・上」

 聴覚を取り戻したことでかえって調子が狂い、妖怪相手に深手を負った百鬼丸。そんな彼を助けたのは、戦災孤児を育てるミオという少女だった。音の洪水の中、ミオの子守歌だけには興味を示す百鬼丸。ミオと子供たちを安全な土地に住まわせるため、そこに巣食う鬼神退治に向かう百鬼丸だが……

 前回の戦いで耳を取り戻したものの、突然未知の感覚――聴覚を得たことで、音の洪水に苦しむ百鬼丸。人里離れた森の中でひっそりと夜を過ごす中ですら音に苦しむ百鬼丸に、さしものどろろも受けてきた妖怪退治の仕事をキャンセルしようかと言い出します(ここで耳を塞ぐため、どろろが手ぬぐいか何かをリボンのような格好で百鬼丸の頭に巻いてやるのがおかしい)。
 しかし時既に遅く、二人に襲いかかる妖鳥。しかも羽ばたきやら何やらでやたらと騒々しいこの妖怪を前にして、百鬼丸は大苦戦する羽目になります。折りよく現れた琵琶丸によって妖鳥は倒されたものの、深手を負ってしまった百鬼丸。どろろから状況を聞いた琵琶丸は、百鬼丸を穴蔵に籠もった手負いの獣と評すると、人の世で暮らすために穴蔵から出ろと叱咤激励するのですが……

 と、その翌朝、耳に入ってきた歌声に導かれるように歩き出した百鬼丸は、その先の川で体を洗っていた少女・ミオと出会います。百鬼丸の体が不自由であること、そして傷を負っていることを知り、百鬼丸たちを自分たちが暮らすお堂に誘うミオ。彼女は、戦争で親を失い、時には体の一部を失った子供たちと共に暮らしていたのであります。

 今まさにこの近くで酒井家と醍醐家が一触即発の状況(第2話で万代さまを倒した影響として描かれたものでしょう)にある中、酒井の陣で商売をして、子供たちを養っているというミオ。夜に働いているというミオを少しでも休ませるために家事を手伝っている子供たちに加わってどろろも忙しく働く中、百鬼丸は、ミオの歌に苦しむどころか、興味を示すそぶりを示します。
 そんな百鬼丸を前に、何故か居心地悪そうに襟元を直すミオ。その態度は、どろろから百鬼丸が魂の色を見ることができると聞いて、さらに顕著になるのでした。

 そんな彼らを置いて、琵琶丸は戦場から抜け出す道を探すと出て行くのですが――山中で彼が見つけたのは、川の流れる集落の跡地のような場所。しかしその目の前には巨大なすり鉢状の穴が開き、そしてその下には禍々しい輝きが……
 百鬼丸たちのもとに戻り、山中の土地と、そこに巣食った鬼神の存在を語る琵琶丸。鬼神さえいなければ、戦から離れた場所で平和に暮らせるという琵琶丸に、百鬼丸は自分の傷にも構わず飛び出します。そんな百鬼丸の様子に触発されたのか、ミオも、戦で失った分は戦で取り戻すと、今度は醍醐の陣で働くと出て行くのでした。そしてどろろも、久々に泥棒魂を取り戻したのか、その後を追って飛び出していきます。

 さて、琵琶丸とともに件の土地に向かった百鬼丸の前に現れたのは、巨大なアリジゴクめいた鬼神。底知れない実力の琵琶丸をして剣呑と言わしめる鬼神の力は凄まじく、二人がかりでも攻撃を防ぐのがやっとの状態であります。危うく穴の中に引きずり込まれかけたところを琵琶丸に巣食われた百鬼丸ですが、鬼神の一撃は彼の生身の右足を奪っていたのでした。そして百鬼丸はその口から初めての声を発します。絶叫という形で。

 そしてミオの後を追っていった先で、どろろは彼女の「仕事」の意味を知ってしまい……


 というわけで初の上下編エピソードとなった今回は、原作でもトラウマ度が高かったゲストヒロイン・ミオ(未央)のエピソードであります。原作では、百鬼丸が生まれて初めて愛を語った相手として登場したミオですが、こちらの百鬼丸は、耳が聞こえたばかりで違和感に苦しんでいる状態。
 そんな彼が、子守唄を通じて彼女と少しずつコミュニケーションを取っていく姿が初々しく微笑ましいのですが――しかしそうしたすべてが粉々になるように平行して二つの地獄絵図が描かれるラストはあまりにも強烈であります。

 そして強烈といえば、生身の足(!)を失って絶叫を上げた百鬼丸。第5話にしてようやく主人公が声を発したというのも大変な話ですが――それが悲鳴というのもすさまじい。満身創痍の彼が後編でいかなる行動を取るのか、そしてミオたちの運命は――原作を考えると、非常に暗い気分にしかならないのですが。
(しかし百鬼丸はいつの間に声を取り戻したのか? アリジゴクは倒したわけではないはずで、だとすれば妖鳥が鬼神だったのか……?)



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 『どろろ』 第一話「醍醐の巻」
 『どろろ』 第二話「万代の巻」
 『どろろ』 第三話「寿海の巻」
 『どろろ』 第四話「妖刀の巻」

関連サイト
 公式サイト

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