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2019.03.07

岡田屋鉄蔵『MUJIN 無尽』第6巻 激突、鉄砲突き! そして動き続ける時代


 伊庭の小天狗こと伊庭八郎の一代記もますます快調の第6巻。攘夷浪士絡みの一件でついに命のやりとりまで経験することとなった八郎ですが、本書で彼が対峙するのはとんでもない大物。この巻の表紙を飾る豪傑――鉄砲突きの山岡鉄太郎(鉄舟)との大一番が、この巻の前半を飾ることになります。

 一人の花魁の死をきっかけに、講武所の中にまで、尊皇攘夷を叫ぶ浪士たちの集団・虎尾の会との繋がりがある者がいることが判明し、にわかに騒然となった八郎の周囲。
 事件の発端となった旗本の子弟が何者かに斬られたこともあり、浪士たちの逆恨みを警戒した八郎は、講武所を離れ、試衛館への出稽古で腕を磨くことになります。

 はたして、ある晩、芝居見物に出かけた八郎を襲撃する浪士たち。思わぬ救い主のおかげで辛うじて窮地を切り抜けたものの、初めての命のやり取りは、八郎に大きな衝撃を与えることになります。
 しかしどうやら事態も沈静化し、講武所に復帰した八郎。しかしその前に現れたのは、虎尾の会との繋がりを疑われてきた山岡鉄太郎だったのであります。

 八郎と試合を望む山岡。果たしてそれは純粋に剣を磨くためなのか、はたまた試合にかこつけて八郎の命を狙う気なのか――周囲の懸念の中、八郎と山岡の試合が始まることになります。


 後に幕末の三舟と呼ばれ、明治時代には天皇の侍従となった傑物・山岡鉄舟。玄武館に学んだその剣術の腕前は言うまでもありませんが、生来の長身を鍛え上げたその肉体は八郎とはあまりにも対照的であります。
 これまでも様々な相手と対峙してきた八郎ですが、おそらくはその中でも最も大物であり、そして最も強敵の山岡。特に分厚い板をもブチ抜くという通称・鉄砲突きを如何に攻略すればよいのか――と、ここで、前巻での試衛館での出稽古が生きることになります。

 その時から山岡との対決を予感していた八郎。自分より遙かに体格も膂力も上回る相手に、如何に挑むか――それを考えた結果、近藤や沖田と八郎は特訓を繰り返してきました。その間に浪士たちの襲撃という思わぬ事件は挟まりましたが、しかし予感通り山岡と試合うことになった八郎はそこで……
 と、それまでの力と力、力と技、技と技のぶつかり合いにも痺れましたが、そこから一転、山岡の恐るべき鉄砲突きを迎え撃つ八郎の秘策は、実に漫画的ではあるものの、しかし、これまでの伏線を踏まえて実に実に盛り上がるのであります。


 しかし、八郎が剣士として腕を磨く間も、時は流れ続けます。それも、大きな事件を伴って。この巻の後半で描かれるのは、そんな事件の数々と、八郎の生涯を決定付けた出会いであります。

 黒船来航以来、外交――攘夷を巡って険悪な関係にあった幕府と朝廷。その雪解けの第一歩として京から江戸に下向してきたのが、かの皇女和宮であります。
 そしてその和宮を迎えたのは、第十四代将軍家茂。その家茂直衛として新たに設けられた奧詰に父が任じられたことをきっかけに、八郎も初めて江戸城に登城し、そこで家茂と対面することになります。そして八郎の目に映った家茂は……

 これが実に理想的な君主像。果たして実際の家茂がこれほどの人物であったかはわかりませんが、しかし少なくとも本作では、八郎ほどの侍が心酔する主君であることは間違いありません。
 そしてそんな人物だからこそ、混迷に向かいつつあるこの時代を治めてほしい、という気持ちにさせられるのですが――しかし史実は非情というほかありません。

 繰り返された要人襲撃に右往左往するばかりの幕府、勢力伸張を狙う西国諸藩、そして増長する攘夷浪士たち。その状況を本作は庶民の視点を含めて、様々な角度から――相変わらず突然文字(台詞)が増えるのが困り者ですが――浮かび上がらせます。

 その果てに起きた二つの大事件が、この巻のラストで描かれることになります。まもなく八郎の、そして若者たちのモラトリアムが終わる。そんなことを予感させながら、この巻は幕となるのですが……

 その最後の最後にまた面倒な人物が登場。どう考えてもソリの合いそうにないこの人物を前に、八郎はどう動くのか――次の巻は、いきなり不穏な状況から始まることになりそうです。


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