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2019.05.09

正子公也&森下翠『絵巻水滸伝 第二部』招安篇4 立て好漢!! 明日なき総力戦!!


 第3巻の紹介から大きく間が空いてしまい恐縮ですが、『絵巻水滸伝』第2部「招安篇」の第4巻では、いよいよ梁山泊と官軍の死闘もクライマックス。孤立した梁山泊に追いつめられた好漢たちは生き延びることができるのか、果たしてこの戦いを終わらせる術とは……

 梁山泊の息の根を完全に止めるため、実に十三万の大軍を擁して襲いかかる官軍。その主力はかつて好漢たちとは同類であった節度使――宋を守る最後の砦というべき十人と、底知れぬ知謀を誇る聞煥章の攻撃の前に、梁山泊は主力というべき騎兵軍を対岸に釘付けにされることになります。
 その最中、頭領たる宋江が姿を消し、さらに水軍の船まで失われて、完全に孤立した梁山泊を陥とすべく、高キュウ率いる大海鰍船団が迫る……


 と、無敵を誇ってきた梁山泊が、これまでにないほど追いつめられるこの第4巻。前の巻の時点で大変だったことは間違いありませんが、しかし現在の梁山泊は、歩兵軍の好漢たちと、その他の――いわば技術職ともいうべき好漢たち、さらには老人や女子供といった非戦闘員のみが残された状況なのですから、窮地というも生ぬるい状況であります。
 そんな中に迫るのは(高キュウはともかく)三人の節度使の軍勢と、宋国最強の海鰍船団。戦力差だけみれば、もはや絶望的というほかないのですが――もちろん、ここからが梁山泊は強いのであります。

 迎え撃つすべもなく、敵船団の上陸を許してしまった梁山泊。しかしそこで本領発揮と言うべきか、内外から呼応しての奇襲という、我々の大好きな梁山泊流で大反撃を開始――敵の戦力を減らし、残された者たちを逃がし、分断された主力を迎えに行く一石三鳥の策を繰り出してくるのですからたまりません。

 しかもここで活躍する面子は、(特に地上で戦う面々は)地サツ星が大半。失礼ながらどうしても二線級のイメージがあったり、そもそも戦闘ではなく特殊技能で活躍するメンバーたちであります。
 しかしそんな彼らが、それぞれの特技や持ち味を発揮して、実に「らしい」活躍を見せてくれるのが本当に嬉しい。もとより、原典ではあまり活躍しなかった好漢一人一人を掘り下げてみせるのが『絵巻水滸伝』ですが、ここではそれが最も効果的に発揮された印象であります。(終盤の戦いで勝利のきっかけとなったのがあの二人という展開も泣かせます)

 そして、その性質上「外」での戦いが中心であり、攻め込まれることはほとんどなかった梁山泊において、百八星が全員――普段梁山泊に残る面々も含めて――一つの戦いに加わることは、これまでほぼなかったと言えます。
 そう考えてみると、この「招安篇」での総力戦は、ある意味夢のオールスター戦なのかもしれない――などとも考えてしまうのであります。


 しかし、喜ぶのはまだまだ早計に過ぎます。既に梁山に上陸した官軍は、力と数で全てを薙ぎ倒す勢いで聚義庁に迫り、そしてようやく梁山泊帰還の希望が見えた騎兵軍の前には、十節度使最後の一人・あだ名なき韓存保が立ちふさがります。

 特に韓存保は、本作においては呼延灼・関勝・聞煥章と並ぶ宋国四天王の一人であり、呼延灼とは無二の親友であったという設定。「あだ名なき」が示すように、地味ではありますが、しかし迷いなきその戦いぶりは、梁山泊を圧倒することになります。
 そんな韓存保と呼延灼の無骨な男と男同士の激突は、武器と武器、拳と拳を超えて、想いと想いとがぶつかり合う戦い。数々の死闘が繰り広げられたこの巻においても、屈指の名勝負であることは間違いありません。

 そんな戦いの果て、誰もが傷つき、倒れていく中、ついに轟音を上げて燃え落ちる梁山。全てが終わったかに見えた、まさにその時に現れた者たちは、果たして何を告げるのか……
 次巻、「招安篇」最終巻は、それほど間を空けずにご紹介する予定です。


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絵巻水滸伝 第二部 招安篇4


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