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2019.05.30

楠桂『鬼切丸伝』第8巻 意外なコラボ!? そして少年の中に育つ情と想い


 この世で唯一鬼の肉を断つ刀・鬼切丸を持つ少年が、様々な時代を彷徨い、様々な人々と鬼に出会う見る『鬼切丸伝』の最新巻であります。この巻の途中から、掲載媒体が「コミック乱ツインズ」誌からpixivコミックに変更となった本作。しかしこの巻では思いも寄らぬ作品とのコラボが……?

 人間の怨念が凝った存在である「鬼」に対して、その身を唯一斬り、滅ぼす力を持つ神剣・鬼切丸。
 本作は鬼でありながらも人間と同じ姿を持ち、鬼切丸を手に鬼を斬る名無しの少年を主人公に、少年が生まれた平安時代から戦国、江戸時代に至るまで、様々な時代を舞台とした連作であります。

 さて、この第8巻に収録されるのは、江戸時代の尾張での切支丹弾圧事件を題材とした「鬼理支丹」、秀次謀反の巻き添えで斬首された悲劇の姫・最上の駒姫を題材とした「泣き鬼姫」、そして平安時代の歌人・僧侶である西行と鬼の数奇な関わりを描く「鬼反魂の章」の全3話が収録されています。

 このうち、冒頭の「鬼理支丹」までが「コミック乱ツインズ」誌掲載であり、紹介についてはこちらこちらをご覧いただければと思いますが――驚くべきはその次の「泣き鬼姫」であります。
 これはあとがき漫画を読むまですっかり見落としていたのですが、このエピソード、なんと作者が以前に発表した『あっぱれこま姫』とのコラボ漫画なのですから!

 『あっぱれこま姫』は、昭和末期から平成初期にかけて発表された、作者のナンセンスコメディ時代劇。那古里城の破天荒なお姫様・こま姫と、何の因果か彼女のボディーガードとなった腕利き忍者・佐平を主人公とした何でもありのドタバタコメディです。

 その懐かしい作品と本作がどのように結びつくか――といえば、それはなんと「こまひめ」繋がりなのであります。
 といっても上で述べたようにこま姫と駒姫はもちろん別人(確かめるためにあわててコミックスを読み返しましたが……)。キャラクターデザインがこま姫に寄せているという形で、コラボというよりスターシステム的な印象ではあります。

 と、作品を読む前から驚かされたこの「泣き鬼姫」ですが、しかし内容の方もシリーズ屈指の名品なのであります。

 関白・豊臣秀次にかけられた謀反の疑いにより、三条河原で次々と斬首された秀次の妻妾たち。その中には、いまだ秀次とは対面もしていなかった最上の駒姫の姿がありました。
 その処刑より以後、三条河原に響く泣き声。それが鬼の仕業かと現れた鬼切丸の少年は、旧知の鬼・鈴鹿御前と対面、さらにそこで駒姫の亡霊と出会うのですが……

 およそ戦国史で女性にまつわる悲劇においても最大級のものと思われる秀次の妻妾の処刑と駒姫の悲劇。本作で描かれる鬼の存在が、歴史上の悲劇に由来するものが少なくないことを考えれば、駒姫が鬼となるのはむしろ当然と言えるかもしれません。
 しかしこのエピソードは、そこに意外な、そして残酷な捻りを――それも一度ではなく幾度も入れてくるのです。そしてそれだけでなく、この悲劇の鬼に対する鬼切丸の少年の行動にもまた。

 そこに浮かび上がるものは、未曾有の悲劇に対する情と、それを受け止めようとする想いであり――それが鬼切丸の少年の中にも育っていることを、このエピソードは見事に描いてみせるのであります。
 コラボという話題性のみならず、本作の中でも屈指の名品と申し上げた所以であります。


 また、ラストの「鬼反魂の章」は、ぐっと時代は遡って平安時代末期の物語。西行上人で反魂とくれば、これはもう伝奇ものにはお馴染みのあのエピソードなのですが――本作はそれを本作らしい視点から描くことになります。
 あまりに周囲の人間を魅了しすぎるが故に周囲に鬼を生み出すこととなり、人の世を捨てざるを得なかった西行。そんな彼が人恋しさに造りだしたものとは……。

 人とは何か、鬼とは何か――人と鬼の物語を描き続けてきた本作ならではの、異形の愛の物語。物語の時系列的にはかなり最初に近い物語ではありますが、これもまた、少年の成長と物語の深化を感じさせるエピソードであります。


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