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2019.06.28

野田サトル『ゴールデンカムイ』第18巻 ウラジオストクに交錯する過去と驚愕の真実!


 アシリパさんが大英博物館でのマンガ展のメインビジュアルに使われるなど、絶好調の『ゴールデンカムイ』、第18巻の前半で描かれるのは、土方と牛山を窮地に陥れた恐るべき脱獄囚と意外な人物の対決であります。そして後半、ウラジオストクを舞台とした過去編で明かされる驚くべき事実とは……

 網走以降、三派に分かれての行動がいまだ続くこの物語、杉元たちが日本を離れて北に向かう中、北海道に残って暗躍を続けるのは土方一派であります。
 独自に脱獄囚の刺青人皮を集める彼らが次に訪れたのは、脱獄囚が潜むという阿寒湖周辺――なのですが、ここで何と土方と牛山が行方不明という意外な事態が発生することになります。

 どちらも戦闘力という点では本作屈指の二人はどこに消えたのか――二人を追って奔走するのは、なんと門倉とキラウシのコンビ!
 一歩間違えると「誰?」と言われかねない二人ですが、網走監獄の元看守部長の門倉と、出稼ぎ中に土方たちと出会い、雇われたキラウシと、あまり取り柄のなさそうな男二人だからこそ、先が読めない展開が繰り広げられることになります。

 そしてこの二人と対決するのは、元家畜獣医であり、様々な毒物で数多くの人々を殺したという男・関谷。肉体的には非力ながら、その毒物知識と狡猾さを武器とする関谷は、門倉たちには分が悪い相手に見えるのですが……
 例によってまたとんでもないサイドストーリーを絡めつつ展開する中、浮かび上がる関谷の奇怪な信念と願い。そしてその果てに彼が掴んだものは――コミカルな展開だけでなく、悪役造形も印象的なエピソードであります。


 そして舞台は再び北に移り、描かれるのは北樺太のアレクサンドロフスカヤ監獄(亜港監獄)に囚われたかつての同志・ソフィアを救おうとするキロランケの姿ですが――ここで彼が思い出すのは、かつてウラジオストクで出会った人物のことであります。

 ロシア皇帝暗殺という大罪を犯し、逃亡を続けてきたキロランケ、ソフィア、そしてアシリパの父・ウイルク。日本に渡ろうとする三人は、ウラジオストクで写真館を営む日本人青年・長谷川幸一を訪ねたのでした。
 ロシア人の妻とまだ赤ん坊の子とともに暮らす物静かな青年・長谷川から日本語を学ぶことになった三人は、ここで束の間の平穏な時間を過ごすことになります。

 しかしウラジオストクに現れたロシアの秘密警察の影。長谷川を巻き込んで秘密警察と対峙する三人ですが、ここで意外な真実が明らかになることになります。そして引き起こされた大いなる悲劇の後、さらに意外すぎるもう一つの真実が……


 物語の始まりから今に至るまで、実に様々な形で我々読者を驚かせてきた本作。しかし断言しますが、この過去編の結末で描かれたある真実ほどショッキングなものはなかった――と言ってよいでしょう。
 こればかりは是非実際の作品を読んでショックを味わっていただきたいのですが、キロランケたちの過去を描くものとだけ思ってきたこのエピソードが、一転全く違った意味を持って浮かび上がるのは、ただただ圧倒されるばかりであります。

 そしてこの真実を踏まえてみれば、作中のいくつかの描写にも納得がいくのですが――特に稲妻強盗が遺した赤ん坊に妙に優しかった場面など――しかし振り返ってみれば、上で述べた関谷の過去ともよく似た構図となっている(ように見える)辺りなど、作者の用意周到さに慄然とするほかありません。

 そしてそんな過去の因縁があったとも知らず、現在において再会のために動き出すキロランケとソフィア。しかし亜港監獄からの脱獄がそうそう容易くいくはずもなく、また実に本作らしい強敵が登場して――と、またもや気を持たせる場面で次の巻に続くこととなった本作。

 登場人物は増え続け、物語の枝葉は繁り続け、その向かう先は予想もつかないのですが――それでもこの先も待ち受けるであろう驚きを求めて、期待は尽きないのであります。


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