« 野田サトル『ゴールデンカムイ』第18巻 ウラジオストクに交錯する過去と驚愕の真実! | トップページ | 『ゴジラ:レイジ・アクロス・タイム』 怪獣たち、歴史を動かす!? »

2019.06.29

殿ヶ谷美由記『だんだらごはん』第4巻・第5巻 アンバランスさが浮かび上がらせる新撰組の姿


 新撰組と「食事」という、ちょっと奇妙な組み合わせで描く青春群像劇『だんだらごはん』の続刊であります。浪士組として上洛しながらも悩みは尽きず、芹沢鴨の暴挙に悩まされながらも、会津候のために力を尽くそうとする斎藤一とない試衛館組の面々ですが……

 人を斬って京に出た末、浪士組として上洛してきた総司たち試衛館の面々と再会した一。なし崩し的に(元)浪士組に加わった一ですが、しかしそこでは芹沢鴨の一派が幅を効かせ、無法を繰り返していました。
 それでも会津藩への嘆願書を出すことで壬生浪士組となり、状況が好転したかと思えば、試衛館組を敵視する殿内義雄が近藤暗殺を計画、これを察知した総司は、土方の命で殿内を斬って……

 と、その直後の二人と出くわしてしまった近藤と一という、またもや重い場面で始まることとなった第4巻。
 とりあえず話し合うために居酒屋を訪れた四人が、何となく飯を食い始めるという妙にリアリティな場面が描かれる一方で、土方の考えるこれからの隊作りに否応なしに巻き込まれていく一という、実に「新撰組」的な展開が描かれるというギャップが、ある意味本作を象徴していると言えるかもしれません。

 その後、暇を持て余す試衛館組が、もらいもののカレイのつみいれ(つみれ)汁を皆で作ったり、とんでもない甘い物マニアの島田が加入したりと、それなりに楽しい場面も続くのですが――しかしもちろん、それだけで本作が終わるはずもありません。
 ついに揃いのだんだら羽織を誂え、公方様の警護で大坂に向かうことになった壬生浪士組。しかしこの時の大坂で何が起こったか――新撰組ファンはよくご存じでしょう。

 相変わらずの酒乱の芹沢の気を紛らわせるために船遊びを提案した一。しかし思わぬ形で(また総司のせいで一が――という気がしないでもない)船遊びは中断、そして大坂の町で芹沢と力士たちが――という場面で第4巻は終わり、そして第5巻では芹沢たちや総司と、力士たちとの大乱闘から始まることになるのであります。

 そしてその先も一や総司、仲間たちには、様々な荒波が押し寄せることになります。将軍の江戸帰還に衝撃を受ける近藤。三条実美・久坂玄瑞らの暗躍が会津の地位を危うくしていることを知る斎藤。
 そんな大きな動きの前に若者たちが迷う中、中では暴走を続ける芹沢が、大和屋を焼き討ちして……


 と、この時代の新撰組(の前身)を描く物語自体は、かなりオーソドックスな印象の本作。そんな中でもちろん本作の最大の特徴である料理描写が挿入されるのですが――それは時にアンバランスに感じられる時もあるのは否めません。
 しかし本作においては、そのアンバランスさもまた狙いの一つと言えます。人間であれば生きるために必ず食べる――そして時には楽しみのために食べる――食事。そんな食事の存在は、日常の象徴といえるでしょう。

 幕末の歴史の巨大なうねりという非日常と、食事という日常と――その両者がアンバランスな関係にあるのはむしろ当然。
 そして同時にそれは、ごく平凡な若者たちであったものが、突然幕府と反幕の争いの最前線に放り込まれることとなった新撰組を象徴するものでもあります。

 そして作中で一が永倉に語ったように、未来に希望を持てず、あるいは芹沢のようになるかもしれなかった彼を繋ぎとめたものが仲間たちとの日常であったとすれば――このアンバランスさは、本作において予想以上に大きな意味を持つものであり、そして欠かすことのできないものなのでしょう。

 そこから何が生まれるのか、そして一たちをどのように支えるのか――この先も見届けたいと思います。


『だんだらごはん』(殿ヶ谷美由記 講談社KCxARIA) 第4巻 Amazon/ 第5巻 Amazon
だんだらごはん(4) (KCx)だんだらごはん(5) (KCx)


関連記事
 殿ヶ谷美由記『だんだらごはん』第1巻 若者たちを繋ぐ剣と食
 殿ヶ谷美由記『だんだらごはん』第2巻 悩みと迷いを癒やす「食」、史実の背後の「食」
 殿ヶ谷美由記『だんだらごはん』第3巻 再会、温め直す一と仲間たちの想い

|

« 野田サトル『ゴールデンカムイ』第18巻 ウラジオストクに交錯する過去と驚愕の真実! | トップページ | 『ゴジラ:レイジ・アクロス・タイム』 怪獣たち、歴史を動かす!? »