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2019.06.27

杉山小弥花『大正電氣バスターズ 不良少女と陰陽師』第1巻 「めんどうくささ」を抱えた二人の冒険始まる


 明治初期を舞台にした『明治失業忍法帖』を見事完結させた作者が次に舞台とする時代は大正――震災後の東京を舞台に、サブタイトルどおり不良少女と陰陽師の少年が帝都を騒がす悪霊に挑む活劇であると同時に、今回もまた、ままならぬ内面を持て余す男女の姿を綴る物語でもあります。

 本作の主人公は、関東大震災後の東京で、凄腕のスリとして知られるアーメンおりょう。元は良家の子女でありながら、震災で両親と家財を失い、流れ流れて今は一匹狼のスリとして暮らす少女であります。
 そんな彼女がある日銀座で出会ったのは、美形ながらおかしな気配を漂わせる少年・烏丸晴哉。自分を陰陽師と名乗る彼は、震災後に東京で活性化した悪霊たちを封じていると語り、おりょうが高い霊力を持ち、魔を惹きつける体質だと告げるのでした。

 もちろんそんな言葉を一笑に付して相手にしないおりょうですが、しかしかねてから帝都を騒がす通り魔に遭遇、訳の分からぬことを口走る男を前に、命の危険に晒されることになります。と、そこに現れたのはあの晴哉で……


 という第1話から始まる本作。電氣バスターズというのは何とも奇妙なタイトルですが、作中で晴哉が悪霊を指して語る「電気みたいな実体のないエネルギー」という言葉に由来するのでしょう。
 その言葉の通り、本作に登場する悪霊・魔の類は、その名から連想されるような恐ろしい姿は持たず、人間の心の弱い部分、暗い部分に取り憑いて、凶行を働かせるという形で活動することになります。

 それ故、本作はタイトルや設定から連想されるほどには派手なお話ではないのですが――しかしそれだからこそ、作中で描かれる「悪意」の姿は、より生々しく、危険なものとして感じられます。

 そしてそんな魔に立ち向かうのがおりょうと晴哉のカップル、というよりコンビ(途中でおりょうが「鷹の目団」と命名)なのですが――晴哉はともかくおりょうはほとんど一般人、そして晴哉の方は極端な貧血体質と命名ヒーローとはほど遠い二人であります。
 しかしそんな二人が、時にぶつかり合い、時に手を携えて、この世を蝕む魔に挑む姿は――先に述べたとおり、敵の姿が生々しいだけに――なかなかに痛快なのです。
(特に第2話で晴哉が繰り出す早九字は、こんなの見たことない! と言いたくなるような豪快さで実にイイ)


 さて、作者の作品といえば、丹念な考証とそれを踏まえた物語展開、そして何よりも登場人物の複雑な内面描写が魅力なわけですが――それはもちろん本作でも健在であります。
 特に最後の点については、期待通りというべきか、おりょうも晴哉も、内面に深刻な「めんどくささ」を抱えたキャラクターとして描かれることになります。

 もちろん、その「めんどくささ」を生み出しているのは、彼女たちが自分自身の内面を客観視しすぎている――客観視できすぎているが故のこと。
 自分の抱えたものに気付かないほど鈍感であれば、あるいはそれと適当につき合えるほど小利口であれば、もう少し傷つかずに生きられるのかもしれませんが――しかしそこから逃げず(逃げられず)に真っ向から向き合う姿は、それだからこそ、こちらの心を動かします。

 特に第1話のクライマックスにおいて、あの震災によって全てを奪われながらも、悲劇のヒロインであることを否定して、自分自身として生き抜いてやると叫ぶおりょうの姿は実に感動的かつ魅力的で――確かに晴哉が「姐さん」と呼んで慕ってしまうのも頷けるのであります。

 その一方で、晴哉の方は陰陽師としての顔にまだまだ見えない部分が多く、ちょっと感情移入しにくいのですが――この巻のラストを見るに、それはまだまだこの先のお楽しみなのでしょう。


 何はともあれ、愛すべきめんどうくさい二人の冒険は始まりました。
 これまで『当世白浪気質』では昭和(終戦直後)を、『明治失業忍法帖』では明治時代を描いてきた作者が、本作でどのような大正時代を描いてみせるのか――その点も含めて、この先が楽しみな物語であります。


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