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2019.06.30

『ゴジラ:レイジ・アクロス・タイム』 怪獣たち、歴史を動かす!?


 現在もハリウッド製作の新作が公開中と、日本のみならず米国でも怪獣王として知られるゴジラ。本書はアメリカで刊行されたゴジラを題材としたコミック、要するにアメコミですが――ゴジラが元寇(!)をはじめとして過去の様々な時代の様々な出来事に関わっていたという、何ともそそる一冊です。

 あの『レッドマン』をアメコミ化したことで、一部で知られるアーティスト、マット・フランク。オムニバススタイルの本書の巻頭に収録されたのは、そのマット・フランクによる、ゴジラ meets 元寇という、とんでもない一編であります。

 元の軍勢が日本に迫る中、小美人の社に向かうよう命じられた武士・須田悟郎と、女忍びの明雄。怪獣使いによって操られるガイガンとメガロの二大怪獣によって無敵を誇る元軍を倒すには、彼女たちが守る八岐大蛇の力を用いるしかない――これはで激しく対立してきた二人は、やむなく一時休戦すると旅立つのでした。

 途中、巨大平家蟹といった怪物たちと戦いながら、件の山にたどり着いた二人。そこで小美人から、八岐大蛇を操る像を託された二人ですが――しかしそこに何とゴジラが出現したではありませんか!
 激しく激突する八岐大蛇とゴジラ。しかしさしもの八岐大蛇もゴジラには敵わず、元軍打倒の希望は、思わぬ形で潰えたかに見えたのですが……

 冒頭で示される明雄の「森の戦士」という謎の肩書きから察せられるとおり、いわゆるアメリカンな日本観で描かれる本作。
 しかも元軍がガイガンとメガロを擁していたり、何故か小美人が八岐大蛇(『日本誕生』も『ヤマトタケル』も関係はないのでしょう、たぶん)を祀っていたり、さらにはいきなりゴジラが乱入してきたり――「?」がつく点は少なくありません。

 しかし漫画としてみれば、さすがはマット・フランクというべきか、巨大な怪獣がその能力を全開にしてぶつかり合う場面の迫力は見事というほかなく、細かい理屈や違和感も粉砕されてしまいます。
 一番の謎であった、何故元にガイガンとメガロが? という謎も、怪獣使いの影が――という思わずニヤリとさせられる形で明かされて(ただこの場面、原典に即した訳語にしていただきたかった)、なるほどこういう話もありか! と納得させられました。


 さて、本作はこの第1話を皮切りに、世界中でゴジラの痕跡を追う考古学者(何でもゴジラや怪獣に結びつけようとする○人。モナーク所属と言っても納得します)を狂言回しに、展開される全5話のミニシリーズ。
 ギリシア神話の神々(本当に神様)とゴジラの死闘がポンペイ最後の日に繋がっていく(ちょっとゴジラvsアクアマン的趣もある)第2話。
 黒死病が猛威を振るうイングランドで、ドラゴン退治を命じられた騎士たちが、モスラそしてメガギラス(!)と遭遇する第3話。
 ローマ攻略のために極寒のアルプスを越えようとするハンニバルがゴジラと遭遇する第4話。
 そして白亜紀、恐竜だけでなく怪獣たちの楽園だった世界を舞台に、ゴジラと無数の怪獣たちの最後の戦いが繰り広げられる第5話。

 先に述べたように緩い繋がりはあるとはいえ、基本的には独立した物語であり、ストーリーも作画も異なるため、エピソードごとにクオリティに差がある点は否めません。
 また、もう少し大胆に歴史上の事件に絡めてもよかったのでは――という気がしないでもありませんが、現代兵器・科学兵器の存在しない時代で繰り広げられる人間と怪獣の戦いは、これはこれで迫力十分。

 特に第4話は、最終話を除けば最も古い時代ですが、そんな時代の武器でゴジラに挑むハンニバルの姿は圧巻であります。


 ただ一つ、どうしても気になってしまったのは、「このゴジラ(たち)は、どの作品の過去なのだろう……」という点(ゴジラが突然変異を起こして怪獣になったのは、基本的に現代になってからのはずなので)。
 過去の時代にゴジラが出現するからこそ、どこからどのようにやってきたのか――そこはきっちりとして欲しかったのですが、これはまあ野暮というものでしょうか。

 あるいは冒頭に触れた最新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では、ゴジラたち怪獣を、神話の時代から生き続ける、神話の元となった存在として描いているようですが――あるいは本書のゴジラはそれに一番近いのかもしれません。
 まず間違いなく偶然ではありますが、そう考えてみるのも楽しいものではあります。


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