『ご存じ、白猫ざむらい 猫の手屋繁盛記』 ついに実現、待望の父子競演!?
猫又の呪いで巨大な白猫にされてしまった猫ざむらい・近山宗太郎の奮闘を描く『猫の手屋繁盛記』も快調シリーズ第6弾――今回はいよいよある人物がゲストとして登場することになります。そう、元町奉行の大身旗本であり、若い頃は遊び人だった宗太郎の父が――果たして父子競演の行方は如何に!?
ふとしたことから猫又の呪いを受け、巨大な白猫の姿に変えられてしまった宗太郎。呪いを解くためには百の善行を積まなければならないという運命に、市井で何でも屋を開業した宗太郎は、その中で様々な人間や猫、動物や幽霊と触れ合ううちに、人間として大きく成長していくことになります。
そして今日も猫の手屋として市井の人々を助ける宗太郎が、ある日銭湯で出くわした事件を描くのが、巻頭の『昔取った杵柄』です。
ある日、馴染みの銭湯で思わぬ人物と出会うことになった宗太郎。それは近山銀四郎――自称・用心棒の浪人にして「桜吹雪の銀の字」、そして宗太郎の父であります。
……もともと宗太郎の父親は、以前町奉行を務めた大身旗本という設定。そもそも近山という姓自体本名ではなく、父や家に迷惑をかけないための偽名なのであります。
しかしこのような設定であれば、いずれ父親も登場するのかな――と思えばこの展開。思わずびっくりの直球ですが、息子が猫ざむらいなのを思えば(?)これもOKでしょう。
かくて思わぬ再会を果たした宗太郎は、父が密かに自分を見守ってくれていたことに感動するのですが――そこに水を差すように起きたのが、思わぬ泥棒騒動。銭湯の二階から、24両もの大金が盗まれたという騒動に、近山父子は二人で挑むことになります。
しかし父の方は昔取った杵柄とはいえ今はお役目を外れ、一方の宗太郎のほうは猫ざむらい。性格の方も若い頃は遊び人で彫り物までしていたという父と、石部金吉金兜の宗太郎は正反対であります。
果たしてこの二人のコンビネーションや如何に――と、一種のミステリとしての楽しさに加えて、父子のコミカルなやりとり、そしてたとえ姿は変わっても確かに通じ合っている父子の情がグッとくるお話です。
そして何だかんだで年末には実家に帰った宗太郎を襲った思わぬ悪夢を描く小編『加牟波理入道、ホトトギス』 に続いて描かれる第3話『すごろく』は、それまでとは一風変わった、何とも不思議な味わいの作品です。
あまりに放蕩が過ぎたために蔵に押し込められ、それでもまだ行いが収まらず、面当てのように自らの命を絶ったという大店の若旦那・清太。宗太郎とは全く無関係のような話ですが――しかし何でも屋の仕事の帰り道に宗太郎の懐に飛び込んできた子猫には、何と清太の魂が宿っていたのであります。
首をくくった直後に、その身に近づいた猫に取り憑いたという清太。そんな彼が宗太郎を頼ってきたのは、二世を誓った吉原の遊女のもとに自分を連れていって欲しいと頼むためでありました。
あまりに自分勝手で脳天気な清太に閉口しつつも、しかし頼まれたらイヤとは言えない宗太郎。しかし彼にとって吉原には最も縁遠い場所と悩んでいるところに、腐れ縁の役者・雁弥と出くわした宗太郎は、彼の力を借りて吉原に向かうのですが……
テンポよい会話によって、まるで落語のようにおかしなシチュエーションで物語が展開していくのが魅力の一つの本シリーズ。
その魅力はこのエピソードにおいてももちろんフル回転で、宗太郎以上におかしな境遇ながら太平楽な清太に振り回される宗太郎たちの姿には、幾度も噴き出しそうになります。
しかしそれだけでは終わらないのも、また本シリーズらしさというもの。苦労の果てに吉原にたどり着いた宗太郎たちが知った真実とは、そしてそれを知った清太の選択は……
そこまでのおかしさが一変、あまりに苦い真実にギョッとさせられた末に、さらに苦いもう一つ真実を突きつけられる本作。『すごろく』という題名に込められたものに気付かされた後に、何とも言えぬ味わいが残る――本シリーズでなければ描けないような、変格の人情ものであります。
そんなわけで、本作においても幾つかの善行を積み、そしてそれ以上に大きな経験を積んだ宗太郎。
そんな彼が百の善行を積んで人間に帰れるのはいつか――は、猫は七つより大きい数を数えられないのでわからないのですが(ひどい)、様々な面白さが詰まった本作を読むと、それはもう少し先でもいいのではないかな、などと思ってしまったりもするのであります。
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