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2019.07.02

『鬼滅の刃』第十三話 「命より大事なもの」

 全力を出した響凱に苦戦を強いられつつも、戦いの中で新たな動きに開眼し、ついに響凱を倒した炭治郎。清たちとともに屋敷の外に出る炭治郎だが、そこに待っていたのは、傷つきながらも禰豆子の入った箱を守る善逸の姿だった。善逸を執拗に痛めつけた猪男に、炭治郎は……

 前回ラスト、いかにも少年漫画の主人公らしく、それでいてちょっとヤケクソ気味に己を鼓舞した炭治郎。しかしあっという間にやっぱダメだ! と気合いだけではどうにもならないことを思い知るのでした(それにしても早すぎないか――と思いましたが、原作では数コマで断念しているのでまだマシ)。
 それでは頭を使うんだ! と言っても頭を使う暇もなく、精々が相手の名前を問うて、響凱であるということを知ったくらいの炭治郎。そんな中、響凱が繰り出してきたのは、」さらにハイスピードに鼓を叩きまくるという、ビジュアル的には面白いものの、色々と洒落にならない攻撃であります。しかしその戦いの最中、部屋の一つの棚にしまい込まれていた無数の原稿用紙が散らばり、床にまき散らされて――そこに何かが書いてあるのを見て取った炭治郎は、とっさにそれを踏まずに避けるのでした。

 それを見て驚いたのが響凱であります。実は彼の前身は作家志望の男(そして趣味は鼓)。しかしなかなか芽が出ずに知人(?)から酷評を受けた上、文字通り原稿を踏みつけにされた彼は、鬼の力で相手を惨殺した過去があったのであります。
 もちろんそうとは知らぬものの、しかし咄嗟に紙を避けたことがきっかけで、怪我が痛まない体の動かし方、呼吸法に開眼した炭治郎。そして響凱の攻撃の予備動作も見破り、水面を飛び跳ねるような動きで回転する部屋もものとはせずに飛び込んだ炭治郎の一刀は――「君の血鬼術は凄かった!!」という言葉とともに――見事に響凱の頸をはねるのでした。

 そして崩れ落ちながらももう一度炭治郎の言葉を確かめる響凱と、それを認めながらも、人を殺したことは許さないと答える炭治郎。不思議な心の交流の果てに、響凱は自分のことが認められた満足感と共に散るのでした。(まあ炭治郎はその間、珠世に言われたとおりに響凱の血を採取したりしていたのですが)
 何はともあれ、屋敷を支配していた鬼が滅び、待っていた清とてる子とともに表に向かう炭治郎。しかしその途中で血のにおいを嗅ぎ、不吉な予感に急いでみれば、そこには猟奇猪男にボッコボコにされた善逸という衝撃映像が待っていたではありませんか!

 実は炭治郎と響凱の戦いの最中、屋敷がグルグル回るのに巻き込まれて屋敷の窓から外に放り出されていた善逸と正一。咄嗟に正一を庇って傷を負うなど、相変わらず人の良いところを見せる善逸ですが――そこで終わればまあめでたしだったところに飛び出してきたのがあの猪男だったのです。
 そして善逸が声を聴いて気付いたその正体は、五人目の鬼殺隊合格者――そう言われてみればお館様が、その場に四人しかいないのに五人と言っていましたが――誰よりも早くやって来て誰よりも早く帰っていったという見かけ通りの猪野郎であります。

 さて、その猪男が狙うのは、鬼の気配がする箱――そう、禰豆子が入った箱。しかし善逸は箱に鬼がいることを初めから知りながら、炭治郎を信じ、そして炭治郎の「命より大事なもの」という言葉のためだけに、箱に襲いかかる猪男を必死に止め、身を挺して庇っていたのであります。そんな善逸に対し、らちが明かぬとついに刀を取り出した猪男。それを目にした炭治郎は……


 前回原作を3話消化したと思えば、1話半という一気にペースダウンした今回。しかし前半は響凱との決着戦、後半は善逸の覚悟と決意というそれぞれ大切な内容だったので、まあ仕方がないところでしょう。
 特に善逸については、原作以上に丹念に善逸の行動を描写することで、これまでどう見ても単なるナニだった彼の中の――これまで少しずつ匂わされていた――内なる善性とヒロイズムの描写に力点を置いてみせたのは大いに好感が持てます。その分、かなり痛めつけられて痛ましい限りですが……

 さて、今のところ単なる戦闘狂の猪男の方はどのように描かれるのか――それは今後に期待であります。


 しかし響凱、伝奇小説家志望だと知って一気に親近感が(もっとも私など、うかつな感想書いてばっさりやられる側かもしれませんが……)


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