「コミック乱ツインズ」2019年8月号(その一)
一ヶ月空いてしまいましたが、「コミック乱ツインズ」誌の最新号、8月号の紹介であります。表紙は武村勇治『仕掛人藤枝梅安』、巻頭カラーは橋本孤蔵『鬼役』、特別読み切りで柴田真秋『武蔵の理』が掲載されています。今回もまた、印象に残った作品を一つずつ取り上げましょう。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
七代将軍・家継宣下が近づく中でいよいよ激しくなっていく権力者の暗闘。新井白石は長崎奉行減員の噂を聞き、その背後に柳沢吉保の影を知ることになります。
ここで聡四郎に代わり白石の手足となった徒目付の前に立ち塞がるのは、同じ徒目付でありながら柳沢の下についた永渕。そして二人が激突を繰り広げる場に現れた怪漢の正体は……
というわけで、白石に逆らって聡四郎が閑職に置かれ、今回はほとんど驚き役となっている一方で、どんどん展開していく物語。これまでも物語の陰で暗躍してきた一伝流の達人・永渕ですが、今回ついにその師が登場することになります。
その師というのがまた、剣鬼という存在を絵にしたような――本当に本作は「厭な人間」の顔を描くのが上手い――実に恐ろしい相手。そしてその存在が、聡四郎たちを思わぬ因縁に引きずりこんでいくことになるのですが――その前に聡四郎の前に再び紀文が、というところで次回に続きます。
『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明(監修))
散逸した初代大橋宗桂の棋譜七冊のうち、長崎までの旅で二冊を手にした宗桂。残る五冊を、宗桂と彼の周囲の人々は、それぞれの思惑を秘めて探すことになります。
そして今回の中心となるのは、宗桂の従姉妹であり、将棋御三家・伊藤家の生まれながら女である故に将棋に触れることを許されなかったお香。宗桂のもとに調べに向かった彼女は、そこで思わぬ相手に出くわして……
宗桂・お香・田沼勝助と、これまで将棋を通じて結びついてきた仲間たちが、それぞれに背負ったもののために道を少しずつ違えていく姿を最近描いている本作。その中でも最も印象に残るのは、女というだけで差別され続け、好きなように将棋を打つという自由を掴むためにスパイ紛いの行為を余儀なくされるお香の姿でしょう。
今回もその彼女の複雑な心中が描かれることとなりますが――その一方で相変わらずの鉄面皮なのが宗桂。思惑が一番わからないのが主人公というのもすごい話ですが、しかし今回彼が明かした棋譜の秘密の一端は、そうならざるを得ないようなとんでもない背後があることをうかがわせます。
果たして今回明かされた人物の名前が如何なる意味を持つのか――これは気になります。
『土忍記 剣と十字架』(小島剛夕)
小島剛夕の名作復活特別企画の第十一回は、先月に引き続き、抜忍たちの孤独な旅と戦いの姿を描く連作『土忍記』からの採録であります。
放浪の果てにやって来た九州で激しいキリシタン弾圧を目の当たりにした抜忍・多羅尾平八。ふとしたことからそんなキリシタンの村の一つに身を寄せることとなった平八は、両親を処刑されたばかりの娘・香代らとともに、そこで開墾に勤しむことになります。
キリシタンの教えを理解できぬものの、香代と語らううちに、神の存在を信じるようになっていく平八。彼がようやく平和と幸せを掴もうとしたその時、村の人間の醜い嫉妬が……
抜忍+キリシタンという、これはもうどう転んでも悲惨なことにしかなりそうもないという予感のとおり、何ともやりきれない物語が展開する本作。決して辛苦だけでなく、小さな希望の姿が描かれるだけに、その辛さは幾層倍にもなって刺さるのであります。
アクションシーンは非常に少ないのですが、凝縮されたそれが、(一歩間違えるとかなり無理矢理な場面なのですが)主人公の悲痛な想いの爆発として描かれる様も印象的な作品であります。
長くなりましたので二回に分けたいと思います。
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