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2019.07.24

『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』 ファンであればあるほど納得の一冊!


 いまや週刊少年ジャンプの看板作品の一つとなった感もある『鬼滅の刃』の公式ファンブックが発売されました。ファンブックとしては定番の内容ながらその内容は充実の一言、新情報も多く、ファンであれば必読の内容であります。

 ある程度の人気と連載期間の作品には刊行されることも少なくない公式ファンブック。本書はそのファンブックとして、単行本第16巻までの内容をベースとした(それゆえ単行本未収録分については記載なし)一冊であります。
 その内容はといえば、ストーリー紹介にキャラクター紹介、カラーイラストの再録など、定番のものが少なくないのですが――しかしその部分だけでも十二分に面白いのです。

 特に面白いのはキャラクター紹介。何が面白いといえば、主要登場人物に付されたプロフィールの数々であります。
 身長体重や生年月日、出身地などは、個人的にはそこまで興味はないのですが(ただ、出身地は馴染みのある地名が多くてなかなか面白い)、趣味や好きなものが、かなりユニークなものとなっていて、実に愉快なのです。

 詳細は述べませんが、キャラクターのイメージのままであったり、意外だったりと、ちょっとした情報なのに、ぐっとその人物像が膨らむのは、ファンとしては何とも楽しいもの。
 特に目つきが異常に悪いあのキャラの趣味がカブトムシを育てることというのは、これはもうネタにしてくれと言わんばかりで、作中ではまず描かれない(まあこのキャラの場合、作中で好きなものをさんざんいじられていましたが)情報がこうして提示されるのは、ファンとしては嬉しいことです。

 さらに情報といえば、単行本のおまけページやアニメ予告でおなじみの「大正コソコソ噂話」は、各キャラクターに作者の描き下ろしカットつきで収録+細かい字でびっしりと書かれた全3ページと大盤振る舞い。
 その内容がまた、趣味や好きなものどころではないぶっ飛び方で、ある意味実に身も蓋もありません。個人的には、誰もが何となく気付いていた蛇柱の想いの正体をぶっちゃけている点など、もう少しこう何というか、手心というか――と言いたくなるほどであります。

 ひねくれた見方をすれば、こうした企画記事というのは、ファンブックの編集スタッフの手になるものが多いのかもしれませんが、しかし本書については、そのあまりの内容ゆえに、これは作者が自分で書いたのだろうなあ――と、妙な形で確信してしまうのです。


 さて、こうした定番企画自体も面白いのですが、その他に目を引くのは、本作の前身に当たる『鬼殺の流』の第1話から第3話までのネームの収録であります。
 てっきり本作の原型である読み切りの『過狩り狩り』が収録されるのかと思いきや、より現在の形に近い形のネームが収録されるというのは驚きです。

 原稿を横向きにして、1ページに2ページ収録という変則的な形式ではありますが、しかしそれでも絵などは十分細部まで読みとれる精度。もちろん内容の方は今回初公開であり、ファンブックとしては珍しい、かなり思い切った――そしてファンには非常に興味深い企画であることは間違いありません。

 ちなみにこの『鬼殺の流』は、明治時代を舞台に、鬼を狩る鬼殺隊の少年・流を主人公とした物語。
 鬼と鬼殺隊の関係、最終選抜の内容、沼鬼の登場など、すでにこの時点で現在の作品の設定ができあがっていたのがよくわかりますが――主人公が右腕と両手を失い、左手のみで刀を振るうという設定はさすがに尖りすぎていて、現在の形になったのも頷けるところではあります。


 その他、これでもかとばかりにキャラクター(特に善逸と義勇さん)をいじりたおした『キメツ学園』の短編9ページ描き下ろしが収録されていたりと、とにかくファンを楽しませることに徹した印象のある本書。

 非常にひねくれた、意地の悪いことを申し上げれば、ファンブックというものは、ファンであればあるほど納得のいかない内容であったりするものですが――本書については、それは全くの杞憂であった、と言ってよいかと思います。
 こうしたファンブックを手にしてみようと思うくらいのファンであれば、間違いなく読んで損はない一冊であります。


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