麻貴早人『鬼哭の童女 異聞大江山鬼退治』第2巻 「正義」という名の壁を叩き壊して進め!
酒呑童子が倒された後に始まる酒呑童子伝とも言うべき奇怪な物語『鬼哭の童女』の続巻であります。体を喪い、童女・葵(アオ)の中に眠る酒呑童子を守り、孤独な戦いを続ける茨木童子。頼光四天王との戦いの末、鬼取山の前鬼・後鬼を訪ねる茨木ですが、そこにも安息の地はなく……
大江山で源頼光と四天王によって滅ぼされたと言われる酒呑童子一党。しかしただ一人の生き残りである隻腕の男・茨木童子は、その身に酒呑童子の魂を宿した童女・葵を連れ、復讐のために京に向かうことになります。
一度鬼としての力を発揮すれば、異形の獣人と化し、超絶の力を揮う茨木。しかし彼の怨敵である頼光配下の四天王もまた、酒呑童子の血を口にすることで、異形の怪物と化す力を得ていたのでした。
かくて、鳥人に変身する力を得た四天王随一の弓使い・卜部季武と、人外の死闘を繰り広げることとなった茨木は、辛うじてこれを撃退したものの、力つきたアオを守って同じ鬼である前鬼・後鬼を訪ねることになるのですが、そこで彼らを待っていたものは……
酒呑童子ならぬ酒呑童女として、一つの身に二つの魂を宿すこととなった酒呑とアオ。弱い体に宿ったことでその力を十全に発揮できない魔人――というのは定番パターンではありますが、しかしそれが鬼の中の鬼であるだけに、そのギャップは強烈であります。
そんな状況のこともあり、この巻ではアオは力尽きて寝ているか、人質になっているかの状態で、戦いはほとんど全て茨木の役割なのですが――いずれにせよ、大江山のツートップがこの状況だけに、残された鬼たちの苦境も推して知るべしであります。
そう、この巻に登場するのは、そんな残された鬼たち――朝廷に帰順し、その庇護に、いやその支配下に置かれた鬼たちの姿。かつて役小角に従った古き鬼・前鬼と後鬼すら、今は自由に出ることのできない結界の中の里に、一族の者たちと細々と暮らすのみなのであります。
もちろんそれは一つの立派な選択の結果であり、それを今になって――それも自分たちの敗北がその原因である――酒呑童子たちが復讐に憑かれてそれをひっくり返そうというのは、むしろ迷惑であるだけなのかもしれません。
しかし――だからといって、「正義」の名の下に行われる理不尽に屈するわけにはいかない。その気持ちで、目の前の(物理的にも精神的にも存在する)壁を叩き壊す茨木の姿には、大きなカタルシスがあります。
そしてアオをさらった季武との再戦に向かう茨木。鬼の子供たちを引き取り、育てるという意外な側面を持つ季武ですが、しかしその本心は鬼とは全く相容れない歪んだもの。そんな季武に怒りを燃やして突っ込む茨木ですが……
というわけでこの巻のクライマックスも季武との対決となるのですが、ここで明かされる季武のかなり歪んだキャラクターはそれなりに面白いものの、第1巻で対決したばかりの季武と、他の四天王と対峙する前に再戦というのは、少々盛り上がらない印象があるのも正直なところ。
何よりも、「正義」を謳う季武ら頼光サイドの主張に全く説得力がないのがカタルシスに欠けるところで――もちろんそれが狙いなのかもしれませんが――現時点では単純に裏返しの善悪二元論に留まっているのが、勿体ないと感じます。
せめて茨木と戦う正統な理由がある綱が前面に出てくれば印象は変わるのかもしれませんが……(いや、それはそれで復讐者vs復讐者に矮小化されてしまうのかな)
そしてそんな本作の「正義」のよくわからなさを象徴する頼光も、この巻ではほとんど出番のなかったのですが――そろそろ彼の「「正義」の一端を見せてほしい、というのが偽らない心境なのです。
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