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2019.08.13

『鬼滅の刃』 第十九話「ヒノカミ」

 累の糸に圧倒されたところを禰豆子に救われた炭治郎。その禰豆子を妹に欲しがる累に怒りを隠さない炭治郎だが、禰豆子は累の糸に捕らえられ、自分も十二鬼月の正体を現した累の糸に追い詰められる。しかし走馬灯の中に現れた父の舞うヒノカミ神楽から新たな力を得る炭治郎。そして禰豆子もまた……

 対戦を迫ったのを縛り上げて去る義勇に対して伊之助が声小さいと言ったり、しのぶが善逸に人間が走馬灯を見る理由を語ったり、隠の皆さんが蜘蛛になった人々を救出しにきたりとオリジナル描写が冒頭に続いた今回。
 それはともかく、累の糸に斬りかかってみれば、あっさりと日輪刀が折れてしまった炭治郎はいきなり窮地であります。それでも心は折れずに間合いの内側に入って攻撃をしようと考える炭治郎ですが、しかし矢継ぎ早に繰り出される糸の前には及ぶべくもなく――と、この絶体絶命の危機に飛び出したのは禰豆子であります。鬼の肉体でも厳しい一撃を何とか受け止めた禰豆子ですが、ここで累が彼女の姿にヘンに感動することになります。

 これこそが本物の「絆」だ、あれ欲しいと言い出した末に、縋ろうとした姉蜘蛛を一撃で輪切りにした累にドン引きした炭治郎は、お前なんかに妹をやるかとエキサイト。しかしそれを嘲るように、累が隠していた左目を見せれば、そこには「下伍」の文字が……
 十二鬼月の実力を発揮して炭治郎を翻弄するだけでなく、あっさりと禰豆子を捕らえ、抵抗されたとみるや、糸が肌に食い込むほどに雁字搦めにして宙吊りにしてみせる累。そんな絶望的な状況でもなおも屈することなく、炭治郎が放った最大最後の技、拾ノ型 生生流転は、放てば放つほど威力が増していくというその性質で、見事累の糸を斬るのですが――しかし累の本気はこれから。さらに強度を増した糸が、目の細かい蜘蛛の巣のように放たれる中、炭治郎は死を覚悟するのでした。

 そしてその時、しのぶが語ったようにまさに走馬灯を見る炭治郎。そこで彼が見たのは、今は亡き父が、「ヒノカミ様」に神楽を奉納する姿でした。病み衰えながらも、一度神楽を舞えば、凍てつくような寒さの中でも動じることなく、キレのある動きを見せる炭治郎の父。そんな父は幼い日の炭治郎に、どれだけ動いても疲れない呼吸法があること、そして神楽と耳飾りは必ず途切れさせず継承してほしいと語るのでした――「約束なんだ」と。
 ここでこの炭治郎の父を演じるのは三木眞一郎。演技力には定評のある、私も大好きな声優ですが、突然の登場、そしてわずかな台詞数にもかかわらず、強烈な存在感を発揮しています。何よりも「約束なんだ」の台詞に込められた無限の重みたるや……

 そしてここから一気に物語はブーストすることになります。父の記憶とともに甦ったヒノカミ神楽の呼吸から放たれる、あたかも炎の龍のような太刀で、一気に累の糸を断ち切る炭治郎。そのまま糸を断ち切りつつ一気に肉薄する炭治郎と、躱しながら次々と糸を放つ累と――縦横無尽に駆けながら放たれる紅い糸と炎の太刀の交錯は、劇場用アニメと言われても信じてしまうほどのクオリティ、原作ではわずか数ページの攻防とは思えません。
 その果てに最後の力を振り絞り、相討ち覚悟で累に一撃を放つ炭治郎。その時、意識を失って宙吊りとなっていたところに現れた亡き母(演じるはこれまた名優・桑島法子!)の幻影の語りかけに応えて、禰豆子が復活、ついに彼女自身の血鬼術を放つことになります。血鬼術・爆血――彼女に絡みついた糸を通じて滴りながら燃え上がり、炭治郎を断とうとした糸をも焼き切る禰豆子の血。そして炭治郎の刀にも滴ったその血は、炭治郎の一撃をほとんど爆発する勢いで加速させ――ついに十二鬼月・累の首を断ち切るのでした。


 全く個人的なお話で恐縮ですが、あまりに原作に忠実なアニメ化というのは、実は嬉しくない――という気持ちがあります。どれだけ出来が良くとも、やはり原作を超えるというのは至難の業であり、それであればアニメを見なくとも――とひねくれたことを考えていたのであります。。
 そんなわけで、正直なところこのアニメ版にはかなり厳しい目で接してきたのですが――しかしこれほどのクオリティのものを見せられては、自分が間違っていたと認めるほかありません。炭治郎がヒノカミ神楽に覚醒してからの流れは、アニメーションの全ての要素が高いレベルで融合し合い、ここでしか見られないものが描かれていたと、心から感じます。(一つだけ、炭治郎のヒノカミ神楽が凄すぎて、全然相討ちしそうに見えなかったのですが――まあ細かい細かい)

 そしてこの凄まじい流れを、挿入歌「竈門炭治郎のうた」(また直球な題名!)が盛り上げたのも間違いありません。むしろ穏やかな曲調ながら、回想シーンとともに始まり、一端途切れたものの、上で述べた「約束なんだ」の台詞とともに再び流れ始め――という使い方は実に見事でしたが、それに留まらず、大バトルの果てに、この曲のままでエンディングに雪崩れ込んでいくというのも、スペシャル感があって実に良かったと思います。


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