許先哲『鏢人 BLADE OF THE GUARDIANS』第3巻 炸裂、熱い武侠魂とダイナミックな大激闘
中国は隋の時代、子連れの賞金稼ぎにして賞金首・刀馬の死闘を描く武侠漫画の第3巻が登場であります。反隋組織のリーダーを護衛しての旅のはずが、西域の覇権を巡る死闘に巻き込まれた刀馬。その中で恩人を殺され、大爆発した刀馬の怒りの行方は……
恩人であり友人でもある西域の大商人・莫から、隋を倒すと嘯く奇妙な仮面の男・知世郎を長安まで連れて行くという仕事を請け負った刀馬。
息子の七、莫の娘のアユアを連れて旅立った刀馬は、途中で訳ありの美女・燕子娘と、彼女を追う凄腕の剣士・豎を加えて旅を続けるのですが――その先には、思いも寄らぬ悲劇が待ち受けていたのであります。
かねてより西域を狙っていた煬帝の命を受けた裴世矩に煽動され、それまで保ってきた自主独立の誓いを自ら破ることとなった五大胡商家族。
その一人である莫のみ、隋の狙いを見破り、これに異を唱えたのですが――しかしそれがために、胡商家族の長を狙う和伊家の息子・玄をはじめとする外道たちに、莫は無惨に討たれることとなったのであります。
そして同じ胡商家族の家長の子たちとともに、刀馬とアユアの前に現れ、莫の首を見せつける玄。これに対して刀馬の怒りが大爆発、荒事には慣れた面々もドン引きするほどの苛烈さで、和伊家の護衛長を叩き殺して……
というわけで、この世で最も怒らせてはいけないタイプの男の怒り爆発から始まるこの第3巻。元々敵に対して容赦しないプロフェッショナルが、普段の減らず口も出なくなるほど怒り狂えばどうなるか――それは言うまでもないでしょう。
しかし彼の前にはまだ和伊玄をはじめ、六人の尋常ではない使い手がいます。いかに刀馬が超人的使い手でも、さすがに不利は否めない――というところで豎が登場、というのも、お約束ながら燃える展開であります。
何よりも、敵に対して莫のことを、主人でも他人でもなく「内(うち)ら」だと言い放つ刀馬や、その刀馬に俺の戦いに手を出すなと言われて「それを決めるのは私自身」と言い放つ豎の姿は、「武侠」の精神に満ち満ちていて、ただシビレるほかありません。
そして彼らのように、誇り高き自由と絆の精神を行動原理としていたのは、かつての莫たち――莫の先祖たちも同様であります。
力持つ者の暴虐に苦しみながらも、その力に屈することも、他の力持つ者に与することも肯んぜず、己たちの決意と絆、熱意でもって道を切り開く――過去シーンで描かれたそんな人々の姿は、今の刀馬たちの姿に重なり合い(そしてそれと裏腹な玄たちの姿に対比され)、強く印象に残るのです。
(それをさらに現代の世界情勢に重ね合わせてしまうのは、それはさすがに深読みが過ぎるのかもしれませんが……)
それはさておき、ここで展開するバトルは、そんな刀馬たちと、それぞれが面白武器を手にした外道たちが、入れ替わり立ち替わりこれでもかとばかりに繰り広げられるのだからつまらないはずがありません。このくだりは、作者の画力の冴えも相まって、実にダイナミックな味わいの大殺陣を堪能させていただきました。
さらにここで、知世郎がそれまでの道化めいた態度を一変、いやむしろそれをさらに増幅させて得体の知れぬまでの洞察力と話術を見せるなど、大いに盛り上がるのですが――しかしこの先には、更なる激動が待ち受けるのであります。
隋との約束である知世郎の首を狙い、刀馬たちと玄たちの戦いの場に殺到する四大商家族の軍勢。しかし、もはや絆も誇りも失った彼らは、ただ我欲のためにぶつかり合う者たちに過ぎません。
かくて、ある者は情勢に流され、ある者は混乱し、互いに相争う兵の群れ。その隙を突いてこの場を脱出しようとする刀馬たちですが、そこで父の復仇に燃えるアユアが暴走、さらに彼らを飲み込んで、かつてないほど巨大な大砂嵐が……
と、ここで一気に混沌また混沌、思いも寄らぬ展開が連続し、もはや本筋がどこであったかを忘れそうになるほどなのですが――そして正直なところ、その本筋がこの巻ではほとんど進んでおらず、その点は不満が残るのですが――しかし先に述べたように、熱い武侠魂とダイナミックな大激闘で、一気に読まされてしまうこの第3巻。
混沌の中、向かう先は全く見えず、そして謎は深まるばかりなのですが――まだまだ本作の、刀馬の持つエネルギーはこの程度ではない、と期待する次第です。
『鏢人 BLADE OF THE GUARDIANS』第3巻(許先哲 少年画報社ヤングキングコミックス)
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