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2019.08.06

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第3巻 役者は揃った! そして過去と現在が交錯する戦いへ


 実写映画の完結編も発表され、まだまだ人気は衰えない『るろうに剣心』――その『北海道編』も絶好調であります。ついにその正体と目的を明らかにした劍客兵器。強大な戦力を持つ相手に対しては、こちら側も戦力を整えなければなりません。しかしそのメンバーとは!?

 薫の父を探して訪れた北海道で、函館山を占拠した謎の劍客兵器の一人・凍座と対面することとなった剣心。剣心は、劍客兵器が元寇の時に戦った鎌倉武士の末裔であること、そして長年歴史の陰で培ってきた実戦経験を得るために動き出したと、凍座の口から聞かされるのでした。
 しかし真に恐るべき情報は、彼らが先鋒に過ぎないということ――まさに剣心と凍座が対峙していたその時、次鋒が樺戸集治監を襲撃していたのであります。

 広い北海道の各地で、「実検戦闘」を称する襲撃を開始することを宣言した劍客兵器。その阻止を決意した剣心ですが、しかし今ここで戦えるのは彼と左之助のみ……


 そんな状況の下、この巻で描かれるのは剣心チームの集結編ともいうべき物語であります。しかし集結といっても、剣心と左之助、そして斎藤はともかく、今この場で劍客兵器と戦えるメンバーはいるのでしょうか――蒼紫は任務中、比古清十郎は行方不明、弥彦は自分たちが置いてきたという状況で。

 しかし幸か不幸か、襲撃の際には不在であったものの、樺戸集治監にはあの男がいます。かつて志々雄の下で、左之助と死闘を繰り広げた十本刀の一人、明王・悠久山安慈が。
 そして何が正しいのかを求めて諸国を放浪していた天才剣士、同じく十本刀の天剣・瀬田宗次郎が、そしてもう一人――剣心や斎藤とともに幕末の激動を生き抜いた最強の一人、今は杉村義衛と名乗る元新選組二番隊組長・永倉新八が、かつての盟友の要請により参戦。

 元・十本刀の飛車角とも言うべき安慈と宗次郎、そして実在の名剣士にして幕末から明治を生き抜いた永倉と、いま考え得る最強の追加メンバーであります。
 そしてそこにさらに三名――これは正直ちょっと意外だった面子を加え、対劍客兵器のメンバーが集うのはあの碧血碑の前。これが盛り上がらないはずはありません。役者は揃った!


 というわけで、設定上、北海道が舞台であれば当然登場するであろう安慈と、まあ登場してもおかしくない宗次郎(しかし剣心たちに味方する理由にはなるほど、と納得)、そして史実でもこの時点で北海道にいた永倉と、ある意味予想できたこの三人。
 いやむしろ予想ではなく期待というべきでしょうか。そしてその期待は裏切られることなく、真っ正面から見たいものを見せてくれた、という気持ちであります。この辺りの呼吸はさすがは――というほかありません。
(蒼紫や師匠、弥彦の参戦の目も残している辺りもやっぱり巧い)。

 呼吸といえば、剣心・斎藤・永倉という因縁の三人の対面のシーンで、いきなり池田屋ネタで外して見せるのも実に楽しい。
 幕末ファンをクスッとさせつつ、「新キャラ」である永倉の本作ならではの人物像を、そして剣心や斎藤との関係性をサラリと――ではなく、結構引っ張るのもこれはこれで楽しい――描いてみせるのには、ただただ感心させられるのみであります。

 そして、上記のメンバーに加わることとなった、明日郎・阿爛・旭の若手三人組のドラマも面白い。これまで唯一出自が不明だった旭の正体もこの巻で明かされ――これまた意外というか、そういえばいた、という感じなのですが――三人が三人なりの想いを秘めて、動き始めることになるのです。
 前巻の紹介で立ち位置がはっきりしないと述べた三人ですが、この巻において、それがはっきりしてきたという印象があります。「過去」の戦士たちと、さらにはるか「過去」から現れた敵との戦い。そんな自分たちとは(彼らから見れば関係ない)戦いに巻き込まれた「現在」の若者たちとして……

 そんな彼らにとって、この戦いがどのような意味を持つのか。「過去」と接することで彼らの「現在」が、そして「未来」がどのように変わるのか。それはおそらく、この『北海道編』が、懐かしの作品のリバイバルで終わらせない意味を持つものになるのではないでしょうか。
(一方、三島栄次を通じ、「過去」を背負った「現在」の若者の姿も描いているのにも納得です)。


 総勢七名いるらしい劍客兵器の部隊将たちの存在も明かされ、これより本当の戦いの始まり――楽しみしかありません。


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