「コミック乱ツインズ」2019年9月号
今月の「コミック乱ツインズ」――2019年9月号は、最終回の『用心棒稼業』が表紙&巻頭カラー、82ページという破格の扱いであります。その他の作品も含め、今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。
『用心棒稼業』(やまさき拓味)
雷音(終活)が用心棒仕事を終えて帰ってくるのを待っていた坐望(仇討)と夏海(鬼輪)が出会った、武士たちに追われる足軽・春馬。藩主の異母弟と家老派に分かれて争う某藩で、前者に仕える春馬は、江戸の藩主に向けた訴状を持っていたのであります。
江戸までの用心棒を頼みたいという春馬に渋い顔の坐望ですが、雷音が破落戸に追われる女性を助けるために用心棒代を使ってしまったため、やむなく引き受けるのでした。
さらに夏海を仇と付け狙う若者まで現れ、混沌とした状況の中、ようやく国境まで辿り着いた一行の前に現れたのは……
というわけで今月号で最終回の本作は、80ページ強という分量に相応しい、盛りだくさんの内容。藩の運命を背負った足軽に加えて、男から逃げる女、仇討ちに燃える若者というゲストキャラたちの存在は、主人公三人と様々な形で対応する形で描かれ、三人の旅の総決算といってもよいかと思います。
もっとも、要素を盛り込みすぎた――という印象も無きにしも非ずなのですが、しかしそれらが一気に爆発するクライマックスの展開は圧巻。特に、一体何人参加しているのかと、唖然とさせられるほどの規模で描かれる見開きでの大殺陣は、これまで様々な剣戟を描いてきた本作ならではのものでしょう。
実のところ、最終回といっても三人の物語自体は終わらないのですが――その苦く皮肉な、実に本作らしい結末も相まって、まずは見事な大団円であります。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
聡四郎・新井白石・間部詮房・柳沢吉保・紀伊国屋と、様々なプレイヤーの思惑がいよいよ入り乱れてきた今回。剣戟は全くなしという静かな回ではありますが、濃い面子の思惑がギトギトと絡み合う様は、なかなかの読み応えであります。
その中で、聡四郎と紅のやり取りのみはホッとさせる――と言いたいところですが、「人」としての紅と「武士」としての聡四郎の想いが一瞬齟齬をきたす様は印象に残ります。
それにしても冒頭、聡四郎と玄馬が紀伊国屋にディナーに誘われるくだりは、二人の面白リアクションもさることながら、料理が妙においしそうに見えるのは、これはさすがと言うべきでしょう。
『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
湯屋の二階で、女といちゃつきながら四人相手の多面指しで全員同時に投了させた少年と出会った源内。目が覚めるくらい強い相手と指したいという少年に対して源内が連れてきたのは、言うまでもなく宗桂――というわけで、得体の知れない同士の対局が始まることとなります。
と、得体の知れない「同士」と書きましたが、主人公でありながらも得体が知れない、底が知れないのが宗桂という男。そんな彼をこれまで本当に追い詰める相手はほとんどいなかったわけですが、ここに来てついに登場することになります。
それも宗桂が先の先の先まで読むとすれば、こちらは――というわけで、全く対極のスタイルなのが面白い。初代宗桂の棋譜争奪戦も先が見えない中、実に面白いキャラクターが登場したものです。
『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)」
北条家ともども、天下人秀吉から宣戦布告されてしまった伊達家。そういう状況下でも負けん気を失わないところがいかにも伊達家らしい――と言いたいところですが、さすがにいきなり二十万動員してくる相手は、世界が違うとしか言いようがありません。
この辺りのインパクトを、これまで散々使ってきた伊達成実の毛虫ネタで描いてみせるのには吹き出しました。
そんな窮地において、伊達家はどの道を選ぶのか、そして今回は出番のなかったあの人(たち)の行動は――と、やはりクライマックスに相応しい展開であります。
次号からは、鳥羽亮の『必殺剣「二胴」』を原作とする『暁の犬』が連載開始。作画は『江戸の検屍官』『公家侍秘録』の高瀬理恵というのですから、これは楽しみにするなという方が無理であります。
それにしてもこの作品を加え、次号は原作付きが6作品、掲載作品の半分以上というのは、なかなか興味深いところです。
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