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2019.09.29

野田サトル『ゴールデンカムイ』第19巻 氷原の出会いと別れ さらば革命の虎


 アニメ第3期も決定した『ゴールデンカムイ』も、この第19巻で一つのクライマックスを迎えることになります。氷原の果てでついに再会することとなった、北海道から二手に分かれ北上してきた者たち。そこで激しい戦いの果てに迎える別れとは……

 アシリパだけが知るというアイヌの黄金の秘密を求め彼女の父・ウイルクの足跡を追って北に向かうキロランケたちと、アシリパたちを追う杉元たち。北海道から樺太へ、各地で冒険と騒動を繰り広げてきた二つのグループは、北樺太に造られたロシアの亜港監獄でついに出会うことになります。
 その監獄に収監されているのは、かつてウイルクとキロランケの同志だった女性・ソフィア。彼女を脱獄させるために外壁を爆破したキロランケですが、そこに何と流氷を渡ってきたアムールトラが乱入! たちまち監獄は大混乱に陥るのでした。

 という場面から始まるこの第19巻。もはや猛獣の乱入は定番の感もありますが(前の巻を読んだ時、てっきり監獄で飼われていたものと勘違いしておりました)、しかしそれも自由を前にしたソフィアにとっては乗り越えるべき障害の一つに過ぎません。
 まさに母夜叉といいたくなるような暴れっぷりでトラをも蹴散らしてソフィアはついに監獄の壁を乗り越え、アシリパと出会うことになるのでした(そしてここで自分のキャラを貫くキロランケがある意味凄い)。

 そしてソフィアから聞いた父の名の由来から、かつて父と交わしたある会話を思い出すアシリパ。母と自分のみが知る父のアイヌ名ホロケウオシコニ――「オオカミに追いつく」の意が示すものとは、やはり……


 一方、一足遅く亜港監獄に辿り着いた杉元一行は、アシリパたちを追って流氷原へ。そしてその杉元とまず再会したのは――白石! いかにも彼らしいスットボケた窮地に陥ったところからガッチリと手を取り合う再会シーンは、アシリパとはまた別の二人の絆の強さを感じさせる気持ちの良い名場面であります。

 そしてそのアシリパに迫るのは――彼女が暗号の鍵に思い至ったことを察知した尾形。アシリパを重荷から解放してやると語り、杉元の末期の言葉(と称するもの)を交えつつ言葉巧みに迫る尾形ですが――しかしある一つの質問からボロが出てしまったのは、アシリパと杉元の絆の強さによるものか、尾形の抱えた闇の深さによるものか。

 しかし尾形の心の闇は、なおもアシリパを捕らえようと蠢くのです。
 これまで人の命を奪うことがなかった――杉元が奪わせようとしなかった――アシリパに対し、自分を殺せと迫る尾形。これまで自分が生きるために、いや自分が自分であるために人を、肉親を殺してきた彼にとって、あたかも天使の如く生きるよう護られてきたアシリパは、自分の存在を否定するも同然の存在なのでしょう。

 しかしここでも彼女を護る者が――言うまでもなく杉元が登場。ただで済むはずもない二人の再会は、しかし思わぬ結末を迎えることなるのですが……
 そしてその先にあるのは、待望の杉元とアシリパの再会、なのですが――こっちはこっちで全く思ってもみなかった大変なことに。いや、ある意味本当にこの作品らしいですが、もう少しこう、何というか手心というか……


 そんな様々な再会の形が描かれた一方で、激しい戦いを展開することとなったのは、キロランケと、谷垣・鯉登・月島の(元)第七師団の三人。
 まずはインカラマッの分とばかりに痛打を与えた谷垣ですが、しかしここまで来たキロランケの執念はこの程度では止まりません。得意の爆薬を使ったトラップで月島を退け、なおも追いすがる鯉登と死闘を繰り広げ、なおも戦い続けようとする彼に、アシリパが語ったものは……

 複雑な過去と幾つもの顔を持ち、時に頼もしい兄貴分として、時に向背定かならざ謎の人として、物語の中で活躍してきたキロランケ。
 その彼がここまで繰り広げてきた旅の結末は――シリアスな中にクスッとさせられる変化球を交えてくる描写はここでもかい、という印象ですが、しかしそれも含めて彼の旅路であり、そして彼にとっての(読者にとっても)救いと感じます。

 そんな彼が夢見たもの、彼が追い求めたものを、アシリパが受け継ぐことになるのか? あるいはそれは、もう一人の同志であるソフィアの存在が左右するのかもしれませんが――それは次の巻に持ち越しであります。


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