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2019.10.13

佐々木匙『帝都つくもがたり』 面倒くさい二人が追う怪異の多様性


 面白い小説好きには要チェックの賞となった感のある角川文庫キャラクター小説大賞、その第4回に読者賞を受賞した連作怪異譚であります。昭和初期の帝都を舞台に、酒浸りで怖がりの文士と不人情な新聞記者のコンビが、怪談を求めて向かった先で出会う怪異の数々。その先にあるものとは……

 文士と言いつつもなかなか筆で食っていけず、酒浸りの日々を送る大久保の家に、ある日押しかけてきた、学生時代からの友人で腐れ縁の新聞記者・関。
 新聞の企画で怪談を集めているという関は、取材の手伝いに大久保を引っ張りだそうとするのですが、大久保は大の怖がり。しかしそのリアクションが良いのだと鬼のようなことを関は言うのであります。

 もちろん関を追い出そうとする大久保ですが、しかし相手が懐から取り出したのは三十円の借金の借用証。かくて借金をタテにされ、大久保は関とともに新聞企画「帝都つくもがたり」のネタのため、東京で囁かれる怪異を追って東奔西走する羽目に……


 という基本設定の本作は、全八話+プロローグとエピローグから構成される連作短編集。
 女学校の教師をしている大久保と関の元同級生のもとに不気味な赤子が現れるという壱話を皮切りに、川辺に現れる子供の霊や、希少本ばかりを売る幻の古書店、身代わり人形の怪や、街に無数に現れる烏etc. 二人は様々な怪異に出くわすことになります。

 これは全く個人の印象ではありますが、良い(短編)連作ホラーの条件は何かといえば、それは描かれる怪異のバリエーションが豊かであること、ではないかと常々考えています。
 怪異が単一の源から生まれるのでもなく、似たような形態を取って現れるのでもなく、それぞれに生まれ、それぞれに現れる――そのある種の「多様性」こそが、ホラーとしての内容の豊かさにある程度繋がってくるのではないでしょうか。

 その点からすれば、本作は実に理想的な作品であります。登場する怪異は、人の強い念が生んだものもあれば純粋な(?)幽霊あり、妖怪変化としか思えぬものがあれば付喪神的な存在もあり、そしてある種の不気味な「現象」としか思えぬものもあり……
 怪異が次々と発生するのが当たり前と言えば当たり前の連作ホラーにおいて、次に何が飛び出してくるのかわからないということが、どれだけ愉しく魅力的であるかということを、本作は改めて気付かせてくれるのです。


 しかし本作の魅力はそれだけに留まりません。本作で描かれるものは怪異のみならず、その怪異たちの探求者・目撃者・そして記録者である大久保と関、二人自身の姿でもあるのですから。

 本作の語り手である大久保と相棒の関。彼らは本来であれば、怪異を探し、目の辺りにし、それを書き留めるだけの存在であるのかもしれません。
 しかし彼らは単なる狂言回しには留まる存在ではありません。彼らはここに至るまで二十数年間の人生を経てきた人間なのであり――そして本作はそんな彼らの姿を、怪異たちの存在と同時に、徐々に浮き彫りにしていくのであります。

 それは彼らが怪異に触れたことで浮かび上がるものでもあります。逆にそんな彼らの内面が、怪異と密接に関わっている場合もあります。
 いずれにせよ、怪異を描くことで同時に人間を描きだす――一歩間違えればどこか陳腐なものとなりかねないことを、本作は、大久保と関というひどく素直でない連中の姿を通すことによって、ごく自然に、そしてどこか安らぎすら感じさせる空気でもって達成しているのであります。

 そしてそれは、本作で描かれる大久保と関の姿が、単なるのっぺらぼうの語り手などではなく、生きる時代こそ違え、あくまでも我々と同じ人間なのだと感じさせてくれるから――それにほかならないのでしょう。


 個性的で恐ろしい怪異の数々を描きながらも、同時にどこか微笑ましく親しみを感じさせる二人のキャラクターの物語として成立している本作。これが作者のデビュー作とは到底思えません。

 幸い11月には続編が発売されるとのことですが、果たしてそこで何が描かれるのか――いや、そこにあるのが、恐ろしくも個性的な怪異の数々と、二人の男たちの面倒くさい、しかし親しみ溢れる姿であることだけは、間違いのないことでしょう。


『帝都つくもがたり』(佐々木匙 角川文庫) Amazon
帝都つくもがたり (角川文庫)

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