わらいなく『ZINGNIZE』第1巻 激突する豪快な怪物たち、高坂甚内vs風魔小太郎!
徳川幕府開闢直後の江戸を騒がせたという三甚内――高坂甚内・庄司甚内・鳶沢甚内。本作は(たぶん)その三甚内たちと風魔小太郎の死闘を、『ニンジャスレイヤー』のわらいなくが描く忍者アクション――バイオレンスありギャグありお色気あり、とにかくパワフルな大活劇であります。
時は慶長8年(1603年)、まさに徳川家康が江戸に幕府を開こうとしていた頃――江戸では凶悪な忍び・風魔小太郎率いる風魔一族が跳梁し、治安は悪化の一途の状況にありました。
その状況を打開すべく、家康の懐刀・大久保長安が案じた計は、悪党には悪党をぶつけること――そしてそのために選ばれたのが、筑波山に籠もる大盗賊・高坂甚内であります。
かくて高坂甚内のもとを訪れた長安の使者・皿屋菊五郎。しかし菊五郎、いや実はくノ一・お菊に一目惚れした甚内は、彼女と婚礼を上げることを条件に、小太郎退治を引き受けるのでした。
その条件に反発するお菊ですが、甚内の強さは本物。恐るべき力を持つ風魔の異形の忍びをあっさり叩きのめした甚内は、その余勢を駆って小太郎を誘き出し、一騎打ちを挑むのですが……
戦国時代に北条家に仕え、北条家が滅んだ後は、盗賊となって散々に開府直後の江戸を悩ませたという風魔小太郎。身の丈七尺二寸、筋骨隆々で四本の牙を生やしていたという異様な姿で知られる小太郎の名は、忍者の代表格として広く知られています。
しかしその小太郎も最後は幕府に捕らえられて処刑されることとなったのですが、それに力を貸したのが、元忍びで今は同業の高坂甚内だったと言われています。
言うまでもなく本作はこの巷説を踏まえたものですが、しかし逆に言えば、踏まえているのはこの部分のみ。何しろ本作の高坂甚内は、千切れたように見えて実は繋がっている自分の両腕を自在に宙に飛ばして操る、どうみてもロケットパンチな忍法・緋扇をはじめとする忍法を操る豪快な荒くれ者。
筑波山の根城に黄金の山を積み上げ、この世に手に入らぬものは何もないという顔をしながら、お菊の美貌にコロっと参り、死地へと鼻歌交じりに踏み出していくという、快男児というか脳天気というか――とにかく一種の怪物であります。
しかし甚内が怪物だとすれば、その敵となる風魔小太郎は真の怪物と言うべきでしょう。この巻の終盤、三連続見開きという無茶な演出で登場するのも凄まじいのですが、しかし真に恐るべきはそのアフロヘアー――ではなくて、文字通り殺しても死なないその生命力。
竜巻を自在に操って宙を舞い、それ自体が凶器ともいうべき拳を振るう不死身の怪物――それこそが本作の小太郎なのです。
この二人の怪物同士が激突すればただですむはずはない――と思いきや、ただですまなかったのは高坂甚内の方。どれほど攻めてもたちどころに回復する小太郎に打つ手をなくした甚内は、もう本当にびっくりするくらいの大ピンチに……
というあまりにスピーディーな展開には驚かされますが、物語的にはこれはまだ序章と言うべき部分なのでしょう。何しろ冒頭に述べたように、本作は江戸三甚内の物語。それがまだこの第1巻の時点では、高坂甚内一人しか登場していないのですから。
物語の冒頭には残る二人のイメージも登場しているのですが、さてそれが実際に物語にどのような形で登場するかは、本作の豪快かつ奔放なアレンジからすれば、まったく予想も出来ないところであります。
そしてもちろん、それはまだまだこの先も楽しみが待ち受けているということにほかなりません。
そんな本作の欠点を一つ挙げるとすれば、アクションシーンが豪快すぎて(と言ってよいかどうか)、何をやってるかが非常にわかりにくいことでしょう。
これはもちろんアクション漫画においては大きなマイナス。その他の部分は面白いだけに非常に残念な点と言うほかないのですが――しかしそれもまた、甚内や小太郎たち、豪快な怪物たちが勢い余ったがゆえ、という気もしてくるのが、本作のパワーというものであります。
既に単行本は第2巻まで発売され、近日中に第3巻も――という本作。第2の甚内が登場する第2巻も、近々にご紹介する予定です。
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