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2019.10.09

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第17巻 決戦無限城、続く因縁の対決


 アニメは好評のうちに終了しましたが、本編の方は最終決戦真っ只中の『鬼滅の刃』。その第17巻の表紙を飾るのは、風柱・不死川実弥――ですが本編では出番はなく、しのぶvs童磨の決着、善逸運命の決戦、そして炭治郎にとっては因縁の敵との死闘と、クライマックスに相応しい連戦が続きます。

 鬼殺隊総力を挙げての柱稽古の最中、鬼殺隊の頭を潰すべく、お館様・産屋敷輝哉のもとに現れた鬼舞辻無惨。しかしこれを予期していたお館様は妻子を道連れに自爆、さらに珠世と悲鳴嶼の連続攻撃により、さしもの無惨も大ダメージを受けるのでした。
 しかし無惨は自分もろとも鬼殺隊士たちを本拠地である無限城に転移、上弦をはじめ無数の鬼たちが犇めくこの地で、最終決戦の火蓋が切られたのであります。

 そして上弦と最初に交戦することとなったのは蟲柱・胡蝶しのぶ。そしてその相手は上弦の弐・童磨――奇しくもしのぶにとっては姉の仇であります。普段冷静なしのぶも怨敵を前にその仮面をかなぐり捨て、全力を以て挑むのですが……


 非常に残酷で容赦ない、そしてある意味本作らしい展開から始まるこの第17巻。しかし人々の怒りや悲しみを飲み込んで、物語は続きます。
 そして二番目の戦いとなったのは、やはり因縁の戦い。善逸と新たな上弦の陸・獪岳――かつての兄弟子との対決であります。

 柱稽古の最中に届いた手紙を読んで以来、別人のような思い詰めた顔を見せていた善逸。その手紙に書かれていたのは、自分の師・かつての鳴柱が、弟子である獪岳が鬼に走ったことで切腹して果てたという事実だったのです。
 かつては師の下で雷の呼吸を極めるべく修行していた善逸と獪岳。しかしことごとく善逸を下に見てきた獪岳は、その善逸と並べられることに不満を募らせ、上弦の壱と遭遇したことを機に鬼と化したのであります。

 というわけで、いつかはあると思った鬼殺隊の裏切り者との戦い(まあ、この後に上弦の壱という超大物が控えているわけですが)。
 この要素に加えて、善逸の回想に登場した感じ悪い先輩(通称桃先輩)、そして悲鳴嶼の運命を狂わせた鬼に通じた子供という二つの伏線を一気に解消するというのは、ちょっと急ぎすぎの感もありますが、しかしその因縁の相手が、これまでコメディリリーフの印象が強かった善逸というのが、設定の妙でしょう。

 雷の呼吸のうち、壱ノ型のみ修得した善逸と、壱ノ型のみ修得していない獪岳の対決という構図も見事な上に、その決着をつけるのが――というのも泣かせるこの一戦。善逸が獪岳に足りないものを語る時に「幸せの箱に空いた穴」という表現も実に本作らしく、分量的には短いながら、印象に残る戦いです。


 そしてこの巻の後半をほとんどすべて使って描かれるのは、炭治郎&義勇の水の呼吸の兄弟弟子と、上弦の参・猗窩座との戦いであります。
 言うまでもなく猗窩座はかつて炭治郎たちを庇った炎柱・煉獄を倒した因縁の敵。猗窩座にとっても炭治郎は弱いくせに自分に負けを宣告した小癪な(そしておかげで無惨にパワハラされた)相手――というわけで、両者の対決は予め約束されていたも同然と言えるでしょう。

 そしてこの戦いの見所は、あの時とは比べものにならぬほど腕を上げた炭治郎が、猗窩座とどのような戦いを繰り広げるか、に尽きますが――その答えは、あくまでも猗窩座は強かった、と言うべきでしょうか。
 炭治郎、そして彼を上回る達人である義勇の二人が束になってようやく互角の猗窩座。しかし鬼に対して人が互角ということは、無限の体力を持つ鬼が遙かに有利ということでもあります。

 触れただけで即死状態の攻撃を、隙に向かって正確無比に放つ猗窩座。一見パワーファイターのようでいてテクニカルな攻撃を放つ彼に勝ることはできるのか?
 弱肉強食・適者生存を嬉々として語る猗窩座の言葉を、実に見事なロジックで論破するなど、炭治郎もメンタルの上では全く負けてはいないのですが……
(という緊迫した状況の連続の中、たった一言(と擬音)で面白オーラを大真面目に放つ義勇さんはさすがだと思います)


 炭治郎がようやく猗窩座攻略の一端を掴みかけたところで終わる本書。
 まだまだ無限城での戦いは始まったばかり、この先も何が起こるかわからない、最終決戦に相応しい緊迫した状況は、この先まだまだ続くのであります。

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