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2019.10.11

矢島綾&吾峠呼世晴『鬼滅の刃 片羽の蝶』 柱たちの素顔を掘り下げた短編集


 単行本第17巻、そして原点となる作品を収録した短編集の発売と、アニメが終了しても絶好調の『鬼滅の刃』――その小説版の第2弾であります。今回も第1弾と同じく外伝を収録した短編集ですが、中心となるのは柱のメンバー。キメツ学園を含めた全6話から構成されております。

 炭治郎たち同期組5人に柱9人と、主立ったキャラクターだけで二桁ともなる『鬼滅の刃』。これだけのキャラクターがいれば、そこには様々な語り尽くせぬエピソードが、あるいは語られざるエピソードが生まれることになります。
 本書で扱っているのはまさにそのような内容――作中で、あるいはおまけカットで触れられた内容をベースにして、物語が紡がれていくことになります。

 幼い頃に鬼に両親を殺され悲鳴嶼に命を救われた胡蝶姉妹が、ともに鬼殺隊士を目指し、そして運命に引き裂かれていく様を描く表題作「片羽の蝶」
 柱稽古で宇髄から温泉を掘るよう命じられた善逸が、スケベ心から伊之助を騙して一緒に温泉探しに邁進する「正しい温泉のススメ」
 しのぶに対するある想いから、他人にときめいたり腹一杯食べたりできなくなった蜜璃の胸の内が語られる「甘露寺蜜璃の隠し事」
 刀鍛冶の里での戦いの後、療養中の玄弥が、蝶屋敷の少女とのやりとりの中で兄・実弥との記憶を辿る「夢のあとさき」
 お館様たっての願い(?)のために、柱が総出で義勇を笑わせようと奮闘を繰り広げる「笑わない君へ」
 文化祭を目前に、炭治郎たちのバンドによる被害を未然に防ぐべく実行委員たちが悪戦苦闘を繰り広げる「中高一貫☆キメツ学園物語!! パラダイス・ロスト」


 以上全6話、最後の1話は別としても、ほとんど鬼との戦いが描かれることはなく、登場人物たちのやりとりあるいは心象描写で展開していくことになる点は前作同様ではあります。
 しかし異なるのは、冒頭で触れたとおり柱を描く物語主体であることでしょう。第2話と第4話は主人公こそ善逸と玄弥の同期組ですが、彼らの存在を通して描かれるのは音柱と風柱なのです。

 この辺り、善逸祭りだった前作と比べるとバランスがよい――というより、いずれも人気キャラでありながらもなかなか個々の人物のエピソードを描き切るまではいかなかった柱たちを掘り下げたのだと思いますが、納得のチョイスでしょう。
 もちろんここで描かれているものは、基本的に原作で描かれているものから大きく踏み出しているものではなく、上で述べたとおり原作の一場面を膨らませたものという印象ではありますが、嬉しい試みであることは間違いありません。

 そんなわけで読者によって琴線に触れる部分は異なるのではないかと思いますが、個人的におっと思わされたのは「正しい温泉のススメ」であります。
 相変わらず善逸が善逸らしい暴走を繰り広げるお話ではありますが、ラスト近くで、原作で印象に残っていた宇髄のある台詞が拾われているのが嬉しいところ。宇髄のことだから勢いで言っていそうな気もしたのですが、それをそのままで終わらせず、彼と善逸たちの一つの絆の形として描いてくれたのに納得です。

 その一方でかなりギリギリの線を行った感があるのが「笑わない君へ」なのですが――さすがにどうかと思いつつも、悲鳴嶼の空気を読めない真面目さや宇髄の適当さなどは如何にもという印象はありますし、ヒドいオチのようでいて、結末が何となく良い話で終わっているのも愉快で、嫌いになれないお話ではあります。
(ただ、実弥ってお館様を人質にされたら何でも言うこと聞くようなキャラかなあ――という印象はあり)


 本編の方の展開を考えると、何となく哀しくなる部分があるのは否めませんが――それはまあ仕方のないことでしょう。(その哀しくなる筆頭のしのぶの出番が結構多いのは、柱の中で数少ないツッコミ役だからなのでしょう)
 今回もファンアイテムではありますが、前作よりも楽しめることは間違いない一冊であります。


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