« 佐々木匙『帝都つくもがたり』 面倒くさい二人が追う怪異の多様性 | トップページ | 「コミック乱ツインズ」2019年11月号(その一) »

2019.10.14

小山ゆう『颯汰の国』第1-2巻 颯爽たる国造りの物語、始まる


 『おーい竜馬』『あずみ』など時代漫画も少なくない小山ゆうの新作は、江戸時代前期を舞台とした時代活劇であります。徳川幕府の理不尽な圧力により主家が改易となった青年・佐々木颯汰――彼の颯爽たる活躍を描く時代活劇です。(内容の詳細に触れているのでご留意下さい)

 伊豆地方のとある国で少年時代を過ごした佐々木颯汰。物心ついた頃にはすでに父母はなく、土地の和尚に育てられた彼は、和尚が病で亡くなった後に佐々木家の夫妻にもらわれ、のびのびとと育ってきた青年であります。
 多数を相手にしても一歩も引かない剣の腕で城下の近藤道場一の剣士となり、主家・高山家の琴姫の目に留まるほどとなった颯汰。しかしそんな彼の明るく賑やかな日常は、不意に終わりを告げることになります。

 ある日、高山家に突然下された改易の沙汰――時あたかも徳川家が外様大名を次々と取り潰していた頃、高山家も言いがかりのような理由で改易、藩主は切腹が命じられたのであります。
 そしてその開城の使者となったのは、功名心の強さと残忍さで知られた大名・横山宗長。琴姫の美貌に目を付けた宗長によって一度は奪い取られた姫ですが、これを機転を利かせて奪還してのけた颯汰は、重臣の古賀が姫と弟君を奉じてある計画を立てていることを知ることになります。

 その反抗の計画に、仲間や両親とともに勇んで加わる颯汰。彼らの向かう先は隣の幕府の直轄領――そこで颯汰たちが仕掛ける奇想天外な企てとは、そしてその行方は……


 『颯汰の国』というタイトルが示すとおり、主人公・颯汰が国造りに挑む物語である本作。しかし私はこのタイトルを初めて見たときは、てっきり戦国ものと思い込んでおりました。
 その理由は言うまでもなく、幕藩体制が確立した江戸時代に国造りの物語は不可能だろう、という思い込みなのですが――あに図らんや、真っ向から本作はそれに挑んできたとは!

 単行本第2巻のあらすじにはっきりと出ていることではあるので触れてしまいますが、颯汰たち高山家の遺臣の狙いは、隣の幕府領の乗っ取り。住民たちを抑圧し搾取する、典型的な悪代官とはいえさすがにこれは――と思いきや、それを真っ正面から堂々と、そしてユーモラスに爽快にやってのけるのは、これが本作のカラーということでしょうか。

 そう、本作はまさに爽快。普通であれば一つだけでも気が重くなりそうな事件の数々を切り抜けていく颯汰のやり方は一つ一つが心憎いほど痛快で、まさにその名の通り颯爽としたそのやり方というのは実に気持ちが良いのであります。
 題材的には、一歩間違えればいつ悲惨な方向に転がってもおかしくない物語ではありますが、おそらくはそうはならないであろう――という印象を受けるのは、この颯汰のキャラクターをはじめとするカラーによるところが大ではないでしょうか。

 少なくとも私は、大冒険に乗り出す直前、かつて親友たちとともに琴姫に自分たちの楽しかった思い出を語り、共に笑い合った時のことを思い出しながら、颯汰が姫にかけた言葉――
「ずっと……ずっと後になって、思い出話で……あの日みたいに大笑いできるようなことを、この先起こしていきましょうか!!」
という、胸が詰まるほど明るく、気持ちの良い言葉を信じていきたいと思うのです。


 正直なところ、善人は善人の顔を、悪人はものすごく悪人な顔をしているというわかりやすいキャラクターデザインはちょっとどうかな、と思うところはあります(おかげで第2巻の後半に登場した刺客たちの立ち位置がなんとなく予想できてしまうのがちょっと残念)。
 また、第2巻で早くも明かされる颯汰の出自も、本作のような物語においてはプラスに機能するかその逆になるか、悩ましいところではあります。

 しかしタイトルは『颯汰の国』であっても、彼以外の登場人物もまた、一人一人が重要な役どころであることは間違いありません。彼らがこの物語で、この国造りでどのような役割を果たすのかも含めて――物語の向かう先を楽しみにしたいと思います。


『颯汰の国』(小山ゆう 小学館ビッグコミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
颯汰の国 (1) (ビッグコミックス)颯汰の国 (2) (ビッグコミックス)

|

« 佐々木匙『帝都つくもがたり』 面倒くさい二人が追う怪異の多様性 | トップページ | 「コミック乱ツインズ」2019年11月号(その一) »