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2019.11.26

速水時貞『蝶撫の忍』第5巻 虫の力と人の心を持つ者が得たもの


 信長の首を巡り、昆虫の力を持つ伊賀と甲賀の忍者たちの激突を描いてきた本作も、ついにこの第5巻において完結を迎えることとなります。互いを滅ぼし尽くすまで続く忍者同士の死闘の行方は、そして鱗と半坐の運命は……

 本能寺の炎の中から、信長の首を守って落ち延びた甲賀の「胡蝶」鱗。その鱗から首の在処を聞き出すために近づいた伊賀の「斑猫」半坐。
 しかし鱗は首を守るために甲賀を捨て、そして半坐は手段を選ばぬやり方に嫌気が刺して伊賀に背を向け――それぞれ全てを敵に回して戦うこととなります。

 そしてその二人を――信長の首を追う中で全面戦争を開始した甲賀十忍衆と伊賀忍十座。それぞれに昆虫の能力を模した忍法を持つ彼らの戦いは熾烈を極め、もはや双方とも数名を残すのみ。
 甲賀の「鬼ヤンマ」鬼多川無法と伊賀の「螻蛄」服部半蔵――鱗と半坐、それぞれの師が死闘を繰り広げる一方、甲賀を束ねる「蛍」灯に囚われた半坐に(貞操の)危機が迫り、そして鱗は深手を負った身で恐るべき膂力を誇る「噛斬蟲」天牛と対峙することになります。

 そんな中、伊賀の「大蚊」百地丹波の思わぬ裏切りが発覚。そして首を求めて秀吉の軍勢が迫り……


 というわけで、もう冒頭から盛り上がりっぱなしのバトルまたバトルのこの最終巻。半坐を(性的な意味で)喰らわんとする灯の手から、鱗は彼を救い得るのか。無法と半蔵の頂上決戦の行方は。そして全ての戦いの陰で糸を引く、恐るべきもう一人の忍者の存在とは――と、一瞬も気の抜けない展開の連続であります。

 もちろんそんな中でも、本作最大の特徴であり魅力である、昆虫の能力を模した忍者たちの忍法合戦は健在なのは言うまでもありません。
 それぞれ得意の忍法を繰り出した時、数ページにわたり、その忍法と重なる実在の昆虫の驚くべき能力が語られる――このパターンは最後の最後まで変わらず、本作のケレン味とリアリティ(冷静に考えるとだからどうした、なのですが、しかしそれがいいのだ)を支えてくれたと言えます。

 しかしそれだけでなく、もう一つの忍者らしさ――目的のためには敵も味方もない虚々実々の騙し合い、そしてそこから生まれるどんでん返しも、物語の結末に向かって連発されるのがたまりません。
 特に本作最大のダークホースと言うべきキャラなど、○○○○と×××××同一人物説という懐かしい題材を使ってくれるのも嬉しく、最後の敵に相応しい存在感を発揮してくれたといえます。


 しかしそんな忍法合戦――人の命がそれこそ虫けらのように扱われる戦場の中で、互いのために打算抜きで命を賭ける鱗と半坐の姿は、明らかに異質であると同時に、一つの希望と言えます。

 特に敵に文字通り心を奪われた半坐を、鱗がその身を以て救い出す、というのはある意味定番の展開ですが、おっ、ついに――と思いきや、そう来たか! という辺りの展開は、バカバカしくも、周囲の醜い死闘の中でも汚れることない二人の絆を描く名シーンと言えるでしょう。
(そして冒頭から描かれてきた鱗の力を思えば納得いくものであるのもまた心憎い)

 そしてその先に待っていたものは――あれ、こうなる伏線はあったかな? とか、結局楽屋オチか! という印象もあるのですが、まずは非常によい結末であった、と心から思えます。
 そう、そこで描かれたのは、昆虫の力を振るいつつも、人の心を最後まで失わなかった者のみが得ることができるものだったのですから……

 ある意味近年最も忍者ものしていた本作、ここに大団円であります。


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