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2019.11.20

藤田かくじ『徳川の猿』第1巻 テロルに挑む女性戦士たちのバイオレンスアクション


 強い女性は人の心を動かすもの――かどうかはわかりませんが、戦う女性の物語が、様々な時代を舞台に描かれているのもまた事実。本作は江戸時代を舞台に、謎の集団「天狗」によるテロに対抗する部隊「猿(ましら)」に集った戦う女性たちを描くアクション漫画であります。

 「生首の男」という言葉と天狗の面を遺し、何者かに殺された父の仇討ちのために江戸にやってきた少女剣士・鈴。しかし到着早々、宿泊した宿が「天狗」を名乗る武装集団に占拠され、彼女たちは老中切腹を迫る人質とされてしまうのでした。
 しかしそんな状況下で動き出していたのは、鈴と一緒に捕まっていた遊女・月――全身傷だらけの上、目・耳・口が不自由な彼女は、しかし皮膚感覚のみを頼りに凄まじい戦闘力を発揮し、天狗のテロリストたちを瞬く間に鏖殺してのけるのでした。

 実は月とその妹分の犬千代は、対「天狗」組織「猿」の一員。そしてその指揮官である吉村黄金こそが生首の男であると知った鈴ですが、実は父は猿のために働いており、天狗に殺されたという真実を聞かされることになります。
 かくて(?)月の飯炊きとなった鈴は、猿とともに天狗の陰謀に立ち向かうことに……


 というわけで始まるこの物語。ある意味時代劇版チャーリーズエンジェルの趣もありますが、基本的に敵には容赦しない猿の面々は、遙かに剣呑で、そしてユニークな顔ぶれであります。
 その代表が、言うまでもなく本作の中心人物である月。いかなる過去を歩んだものか、かつて拷問で目と耳と喉を潰され、全身に無数の傷を負った――しかも第1話でまた増える――という、設定もビジュアルも壮絶なキャラクターであります。

 しかしこの月、ひとたび戦いとなれば、犬千代が鳴らす太鼓の振動を感じて縦横無尽に動き回り、素手で銃を持った敵も制圧するほどの戦士。そして戦いの中でより周囲の動きを察知するため、強敵を相手にするほど服を脱いでいく――ってスゴいなこの設定!?
 それはさておき、力には力を、というのがバイオレンスものの構図であるとすれば、本作は女性戦士たちを主人公にしつつも、容赦ないバイオレンスものであるとも言えます。

 それに相応しくと言うべきか、「天狗」が繰り広げるテロルも凶悪そのもの。第1話のそれはちょっとアバウト過ぎて驚きましたが――どう考えても旗本の子弟を人質にしても老中は腹を切らないでしょう――それ以降様々な形で展開される「天狗」の悪行は、単に彼らのみならず、周囲の人々の負の感情をかき立てるものであるだけに始末が悪いのであります。

 しかしもちろん、それに立ち向かうのは月一人ではありません。服部半蔵の末裔を自認する小虎、銅銭を打ち出す銃を武器にする岡っ引きのゼニ、骨つぎ師を営む藤江梅蘭など、どこかで見たようなキャラクターも含めて、猿の面々も多士済々。
 個人的には、平山行蔵(!)の秘蔵っ子であり、戦闘時には獅子の仮面を被った正義の剣士に変身する獅子丸こと潮が、大いに気になるところであります。


 そんな中で、主人公であるはずの鈴が、キャラクター的にも戦力的にも弱い(この第1巻ではほとんど○○○○要員)のが気になりますが、それは計算の上の配置なのでしょう。

 何しろ物語はまだまだ始まったばかり。この巻のラストでは、まさかこの場所に、この時代に登場するとは思わなかったとんでもない人物が「天狗」の幹部として登場するなど、敵は想像以上に強大なのですから。
 これに抗する「猿」の側も、まだまだ謎が多いのですが、彼女たちを率いる黄金の正体が実は○○○○○――だから生首の男なのか! と大いに唸りました――であったりと、伝奇モノ的にもたまらない要素が作中の諸処に見られるのも嬉しいところです。

 ここまで来たら、ガンガン何でも投入して、とんでもないものを描いて欲しい――そう願ってしまうのです。


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