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2019.11.14

芦辺拓ほか『ヤオと七つの時空の謎』(その二) 少女が辿り着いた時の先


 狂った世界を修復するために様々な時代を巡る少女・ヤオの冒険を描く連作集も後半に突入。いよいよ現代に近づいてくるのヤオの冒険、その先に待つのは……

「天狗火起請」(高井忍)
 海の向こうから来た金色姫の伝説が残る小田原に現れた、絡んできた侍たちをあっさりと叩きのめし、大山天狗の姫君と呼ばれるようになった奇妙な服装の少女。
 彼女が見せた剣技に惹かれ、つきまとうようになった北条家の侍・斎藤主馬助と、その弟子の手紙を読み、小田原に現れた剣豪・塚原卜伝。しかしその矢先に城下で十一人もの侍が斬られ、ヤオは無実を証明するため、火起請にかけられることに……

 剣豪ミステリ、そして歴史ミステリを得意とする作者による本作は、やはり剣豪を題材とする物語。
 内容的には『柳生十兵衛秘剣考』のような秘剣そのものを題材としたものではなく、謎解きも小粒なのがちょっと残念ではありますが――しかし結末で描かれる剣術者の業と、時を超えて旅する少女の姿の交錯は、何とも言えぬ余韻が感じられます。


「色里探偵控」(安萬純一)
 吉原で廻船問屋の次男が障子の向こうから吹き矢で殺されたという事件を持ち込まれた岡っ引き・染井岩徳(ガントク)。両腕を縛った奇妙な格好と奇妙な喋りの少女・ヤオとともに謎解きにとりかかったガントクですが、どう見ても密室での殺人に頭を悩ませるばかり。しかも今度は、同じ部屋で次男のお守り役だった大番頭の死体が発見されて……

 驚愕の忍者ミステリ『滅びの掟 密室忍法帖』で読者の度肝を抜いた作者が描くのは、江戸時代を舞台とした、やはり(?)密室もの。障子が閉められた外から、正確に吹き矢を打ち込まれた男――しかも犯人と疑われる相手は目の前にいた――という不可能犯罪に、ヤオを用心棒につけた岡っ引きが挑みます。
 何だかこれまでと全くキャラ付けが違うヤオの言動に目を奪われがちになりますが、人間くさいガントクのキャラクターと、結構豪腕なトリックもなかなか楽しい、よくできた一編であります。


「天地の魔鏡」(柄刀一)
 明治時代、人里離れた警視庁の訓練施設・奥川駐留練学所に、国学者・山本を訪ねてきた奇妙な少女。しかしその前の晩から山本は行方をくらませており、連学所の人々は捜索に駆り出されることになるのでした。
 遅々として進まぬ捜索に苛立ちを募らせ、朝礼の場で激高する指揮官の兵藤中警部。そんな中、ヤオが見抜いた真実とは……

 単なる行方不明事件に思えたものが、やがて意外かつ恐ろしい真実を明らかにする本作。その展開自体が謎と密接に関わるために詳細は述べられませんが、前代未聞の犯行方法にはさすがに驚かされました。
 そして「魔鏡」――光を当てることでその下の凹凸を浮かび上がらせる仕組みの鏡――になぞらえて殺人の構図を、人の世の姿を描く本作は、ある意味本書の中で最も「鏡」という存在に自覚的と言えるでしょう。

 しかしここで恥を忍んで申し上げれば、本作で仄めかされている作中の(あるいは史実の上での)真実が何を指しているのか、私にはどうしても理解できませんでした。本当に悔しいのですが、敢えて白状する次第です。


「ヤオ最後の冒険またはエピローグ」(芦辺拓)
 そしてついに最後の時代にたどり着いたヤオの姿を描くのは、冒頭を担当した芦辺拓ですが――やはりただでは終わりません。

 いずことも知れぬ時代に現れ、遠くに見える町らしきものに向かうヤオ。途中、向こうから必死に駆けてくる美しい女性とすれ違ったヤオは、やがて無数の追っ手に取り巻かれ、その国の首長殺しの犯人として捕らえられてしまうのでした。処刑寸前のヤオがたどり着いた犯人の正体とは、そしてこの時代は……

 最後の最後に待っていた絶体絶命の窮地。ここから逃れるための手がかりはあまりに少なく――と大いにハラハラさせられるのですが、明かされた真相には、なるほどこれは歴史ミステリだわい、と思わず納得。
 そしてそこから本書に仕掛けられたある真実(それによって味わいが増すエピソードも!)が語られ、さらにそこには連作をまとめる上の苦労も忍ばれて――と、やはりこの作者らしい大団円と言うほかありません。


 連作として見てみるとちょっと納得がいかない部分があったり、やはりヤオが通りすがりで終わっているエピソードがあるのは勿体なく感じるのですが――しかし豪華執筆陣による連作、それも歴史ミステリという本書の趣向は唯一無二のもの。存分に楽しませていただきました。


『ヤオと七つの時空の謎』(芦辺拓・獅子宮敏彦・山田彩人・秋梨惟喬・高井忍・安萬純一・柄刀一 南雲堂) Amazon
ヤオと七つの時空の謎

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