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2019.11.21

川原正敏『不破圓明流外伝 修羅の刻』第19巻 二人の男と一人の女 不破圓明流始まりの刻


 シリーズで唯一「不破圓明流外伝」と冠された本書は、前巻と対と言うべき物語。東国に対して西国、陸奥狛彦に対して陸奥虎彦――挑むは西国無双こと立花宗茂であります。宗茂と狛彦、そしてもう一人の出会いが、何を生み出すのか……(話の流れ上、物語の核心に触れますが、ご容赦下さい)

 戦国時代末期、まさに群雄割拠というべき九州で、大友家にその人ありと言われた戸次道雪のもとに婿入りした、彼と並び称される高橋紹運の子・左近(宗茂)。
 いわばサラブレッドと言うべき彼は、道雪の娘・ギン千代を妻に迎えることにより、立花城を継ぐことにとなったのですが――しかしギン千代は新婚早々、夫に木刀を手に挑み、これをあしらいかねた左近に肌を許していなかったのであります。

 そんな中、狩りに出かけたギン千代の前に飄然と現れた一人の青年。猪を素手の一撃で下した彼こそは、丸目蔵人との立ち会いを望んでやって来た不破虎彦でありました。
 虎彦に挑むも簡単にあしらわれた末、彼に不思議な感情を抱くギン千代。そして数年後、再び虎彦が自分の前に現れた時、彼女は左近に父の名刀・雷切を賭けて虎彦と戦えと迫ることに……


 時系列的に直前に当たる「織田信長の章」の結末において、双子の兄弟である狛彦に破れ、袂を分かった末に不破を名乗った虎彦。本作ではその後が描かれることとなります。
 そして彼と対峙することとなるのは、前巻の本多忠勝が東国無双と称されたのに対し、秀吉の九州征伐時に示した武勇により、西国無双と称された立花宗茂。忠勝に比べると豪傑度はいささかおとなしい印象もありますが――しかし本作の終盤で語られるように、まさに空前絶後というべき偉業を成し遂げた傑物であります。

 そして彼のことが語られる時に必ず並び称されるのは、その妻である立花ギン千代。戦国屈指の姫武者として有名な彼女ですが――本作ではある意味宗茂以上の役割を果たすことになります。
 そう、本作は一人の女と二人の男の物語――というより、一人の女の生き様の物語でもあるのです。

 戸次道雪の子に恥じぬ武勇を誇りながらも、しかし周囲から、いや父からも家を継ぐ者とみなされず、女として生きることを求められたギン千代。
 その夫となった宗茂が、彼女を対等の存在として、あるいは彼女を力で打ちひしぐような人間であればことは簡単だったのかもしれません。が――しかし本気で挑む彼女をあしらおうとした宗茂もまた、ギン千代を対等の相手として見ていなかったと言えます。

 そのように自分自身として生きることを許されなかったギン千代が、初めて自分自身として対峙した相手が虎彦だったというのは、これは大きな皮肉というべきでしょうか。
 かくて物語は、ギン千代を賭けた、二人の男の戦いになだれ込んでいくのですが――しかしそれは正直なところ、二人にとっては迷惑な話にも見えます。


 特に宗茂は、タイトルロールでありながらも完全に当て馬状態。そのドラマチックな生涯は最後まで描かれたものの、やはりどうにも割りを食った印象は拭えません。
 一方の虎彦もまた、全く望んでいない相手が勝手に自分を賞品にかけて挑んでくるという迷惑な状況。おかげで、不破と名乗りつつ、戦いの末にお相手を見つけるという陸奥と大して変わらぬ道を歩むことになって……

 が、虎彦の場合――いや不破圓明流として見た場合、この物語は大きな意味を持つと言えるでしょう。
 仰ぎ見る相手を失い、己の半身というべき者と袂を分かち、まさしく天涯孤独の身となった虎彦。狛彦と再戦するという望みは掲げつつも、しかしそれは彼にとっては残り物の人生を送る言い訳にも見えます。

 しかしそんな彼にとって、後に残すものが、跡を継ぐ者ができたとすれば――たとえ彼の代では果たせなくとも、いつかは彼の血を、技を継いだ者が陸奥を超えることができるかもしれない。その希望が彼の心に灯ったとすれば――それはギン千代がもたらしたものなのであります。


 ある意味前巻とは別の意味で食い足りない部分はあり(このような内容であっても、立花宗茂伝としてそれなりの格好が整っているのはむしろ凄い)、そしてどこかいびつな物語ですらあるのですが、しかし不破圓明流始まりの物語として、どこか頷けるものがある――本作は、そんな物語であります。


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修羅の刻(19) (講談社コミックス月刊マガジン)


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