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2019.11.11

武内涼『不死鬼 源平妖乱』(その一) 超伝奇! 平安に跳梁する吸血鬼


 いま最も直球で、最も内容の濃い時代伝奇小説を描く一人である武内涼久々の描き下ろし新作は、作者初の平安もの――そして吸血鬼ものであります。平安末期の京の闇に潜む血吸鬼「殺生鬼」と、彼らに大切な人々を奪われた静と源義経の二人が死闘を繰り広げる、直球ど真ん中の伝奇活劇であります。

 古代に遙かスキタイで生まれ、大陸を渡り日本に至った血を吸う者たち。人と同じような暮らしを送り、人は殺さない不殺生鬼と、人の血しか飲まず人を殺す殺生鬼――徒に仲間を増やさず、人と共存する道を選んだ不殺生鬼は、人と協力しつつ殺生鬼と対決、京では殺生鬼の跳梁は阻まれていたのであります――平安時代末期までは。

 そんな中、不殺生鬼の母と人間の父との間に生まれた娘・静は、故あってただ一人京の働いていた貴族の屋敷を飛び出し、顔なじみの不殺生鬼・鯊翁の導きで、血吸い鬼たちの互助組織「結」に参加することになります。
 しかし初めて参加した結は、有力貴族と結んだ殺生鬼、そして貴族や武士を敵視する人と殺生鬼を率いる怪人・熊坂長範一党の襲撃を受け、静の眼前で壊滅状態に陥るのでした。

 そして熊坂長範は、静にとって最も憎むべき敵であり、最も恐るべき相手、そして父親。かつては人間の狩人だった長範は、貴族の暴虐によって瀕死の傷を負わされたところを妻の――不殺生鬼の血を飲んで復活、しかし殺生鬼となって暴走した末に、静を逃がそうとした妻を殺したのであります。

 一方、父・義朝を平家に討たれ、自らは命は助けられたものの、幼くして母から引き離されて鞍馬寺に入れられた牛若丸。彼は、そこで天狗の面をつけた謎の人物・鬼一法眼から武術・兵法の教えを受けることになります。
 やがて法眼の親戚の娘・浄瑠璃と出会い恋に落ちた義経。しかしそのささやかな幸せもつかの間、二人の前に現れたのは熊坂長範――実は浄瑠璃こそは、殺生鬼を死した後に復活させ、不死の肉体と超常の力を持つ不死鬼に変える「王血」の持ち主だったのです。

 自分と配下を不死鬼に変えんとする長範に浄瑠璃を奪われ、さらに二人を救わんとした法眼に長範に倒され――師と恋人を奪った殺生鬼に復讐を誓う義経。
 そして鞍馬山を降りた義経は、密かに殺生鬼を狩る者たち「影御先」の存在を知り、その一員に加わることになります。そしてそこには、彼ら影御先に救われ、長範を討つために仲間となった静の姿が……


 巻末の細谷正充氏の、吸血鬼時代小説を俯瞰する解説に明らかなように、時代小説(そして漫画や映像を加えればさらに)と吸血鬼というのは、決して無縁の存在ではありません。人の姿を取りながら人ではなく、人の血を吸って仲間を増やす鬼は、西洋だけでなく、この島国の物語においても跳梁していたのです。
 が、そんな中でも、舞台となるのはほとんどが江戸時代もしくは戦国時代。そこから遡るとなると作品数は途端に少なくなります。そして本作は、そんな中でも非常に珍しい平安時代を舞台とする作品であることに、まず特徴があります。

 一口に吸血鬼といっても様々なバリエーションがありますが、本作に登場する吸血鬼像は、旧来のオーソドックスなものを踏まえつつ、独自の解釈とアレンジを加えた存在。
 人を殺さぬ不殺生鬼と、人を殺し自らの血を飲ませて仲間を増やす殺生鬼、さらに殺生鬼が一度死に、さらに恐ろしい力を持って復活した不死鬼と――一口に吸血鬼といっても三タイプ、そしてそのそれぞれに生態とルールが存在する本作の設定は、慣れるまでは少々ややこしいかもしれません。

 しかし時代小説ならではの広がり――彼らの存在が、古代から平安時代まで、いやその先まで、人の歴史とともに連綿と繋がっていくことを示すその設定は、本作に一作にとどまらない無限の時と空間の広がりを感じさせてくれます。
 特に本作の冒頭、「だがヨーロッパでバンパイアが猖獗を極めた十八世紀、日本で吸血鬼が蠢いた痕跡はほとんどない。――それは、人々の知らぬ処で、吸血鬼と戦った勇者たちがいたからである」という文章は、簡潔ながらも伝奇ものには不可欠なスケール感を強烈に感じさせてくれる、伝奇者にはたまらない名調子と言うべきでしょう。


 そして本作において敵役となる殺生鬼が熊坂長範であり、この怪物に挑むのが、若き源義経と静――明言はされていませんが、あの静御前でまず間違いないでしょう――なのですから、盛り上がるなというのが無理なお話であります。
 しかもこの義経と静、長範は――と、長くなりましたので、ここで一旦区切ることにしましょう。次回に続きます。


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不死鬼 源平妖乱 (祥伝社文庫)

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