出口真人『前田慶次かぶき旅』第2巻 御前試合!? 新たなるいくさ人登場
ご存じ天下御免のかぶき者・前田慶次の関ヶ原以降の姿を描く原哲夫原作の『前田慶次かぶき旅』の第2巻であります。加藤清正と意気投合した慶次ですが、そこに大事件勃発。それを収めるための慶次の提案とは、そしてそれに乗ったのは……
関ヶ原の戦終結後、京で無聊をかこっていた慶次。彼は、人の心を読む力を持つ若者・権一を家来に、飄然と京を旅立つことになります。
そして肥後に向かった慶次は、そこで加藤清正やその家臣たちとさっそく意気投合するのですが――しかしそこで思わぬ事件が発生したのであります。
海の向こうからやってきた海賊たちが集まる盗人島――加藤家にとっては貴重な貿易相手である彼らの中で、南蛮の海賊が地元の民と悶着を起こし、凄腕の南蛮剣士・ガルシアによって何十人もが命を落としたのであります。
もはやこのまま何ごともなく手打ちとはいかない状況を前に慶次が提案したのは、何と日本人と南蛮人、双方の代表選手による清正の前での御前試合。南蛮側は当然ガルシア、一方地元側は何と……
(まずは)九州を舞台に展開するこの物語、最初に慶次の前に現れたのは加藤清正――相手にとって不足はなしと思いきや、あっさりと慶次と意気投合してしまったため、この先どうなるのだろうと思えば意外な展開となったこの第2巻。
敵は南蛮剣士、というのはある意味定番の展開ですが(カルロス殿とか……(小声))、なるほどここで慶次の出番か! と思いきや、慶次は直接は戦わないというのが、まず第一の驚きであります。
確かに若く描かれてはいるけれども、この当時の慶次は70歳近く――というのはさておき、自分が真っ先に飛び出すかと思いきや、むしろプロデューサー的立場になるのは、慶次の性格を考えれば意外に感じられます。
が、そこで第二の驚きである日本側の選手の名を知れば、ある意味納得というものです。――立花宗茂という名を。
大友家の重臣として活躍し、その武勇を秀吉にも激賞された宗茂。しかし関ヶ原の戦で西軍に属した彼は、国を失い、浪々の身だったのですが――この時まさに彼は清正の食客の身分だったのであります。
なるほど、この人物がいたか! と驚くとともに、これほどの「いくさ人」であれば、こちらも文句があろうはずもありません。
そして――宗茂が登場するのであれば、当然のごとく登場するのは彼の妻・ギン千代であります。
立花家の家督を継ぐ身として宗茂を婿に迎えた彼女は、自身が腕自慢の武者として知られた女性。これはただではすむまいと思いきや、やはり慶次に挑みかかって――と、結果は言うまでもないのですが、しかしここで目を引くのは、慶次が女だてらに云々などとは言わず、あくまでも彼女を一人のいくさ人として遇する点であります。
この辺り、慶次の物語もアップデートされているのだな、と感心したりもするのですが――何はともあれ、彼女のこの行動にも理由があってというのも、定番ながら美しい展開。
史実では宗茂とギン千代はあまり仲はよくなかったようですが、本作においてはこれで正しいのだ、と感じてしまうのであります。
そして始まる大一番。その結果は――ここでは伏せますが、やはりいくさ人信仰は健在、という印象。終盤に登場した新キャラクターもビッグネームではあるものの、いくさ人たちの前にはまだまだ荷が重いようです。
それにしてもこの巻を見た限りでは、慶次を通したいくさ人列伝という感もある本作ですが、果たしてこの先、慶次の前に誰が現れ、何が起こるのか――もちろん慶次もまだまだ大人しくなるはずもなく、破天荒な物語が続きそうであります。
『前田慶次かぶき旅』第2巻(出口真人&原哲夫・堀江信彦 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon
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