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2019.11.09

スエカネクミコ『ベルサイユオブザデッド』第1-2巻 マリー・アントワネットvsゾンビvs……


 もはやありとあらゆる世界と時代を浸食している感もあるゾンビもの。「○○オブザデッド」というタイトルも既に定番ですが――本作はそこから察せられるように、18世紀後半のフランスを舞台とした物語。「マリー・アントワネット」を中心に、死人と悪人妖人たちが入り乱れる物語であります。

 オーストリアから次期王・オーギュストの妃として嫁いできたマリー・アントワネットと、その弟アルベール。しかし彼女たちの馬車の前に現れたのは不死者(モルビバン)の群れ――密かにフランスで蔓延していた「蘇り病」で復活した死者の群れでありました。
 不死者の襲撃からただ一人生き残り、ベルサイユ宮殿にたどり着いたアルベール。思わぬ惨事に揺れる宮殿ですが、当代の王・ルイ15世は、アントワネットの死がもたらす混乱、何よりも外交への影響を防ぐため、彼女と瓜二つのアルベールに身代わりとなるよう求めるのでした。

 かくて姉に成り代わってとして宮殿に入ったアルベール。その才知と人柄で周囲を惹きつけていくアルベールですが、アントワネットの死に疑惑を抱く近衛兵のバスティアンは、彼に疑いの目を向けることになります。
 さらに、ルイ15世の愛人・デュ・バリー夫人に取り入りアルベールを狙う謎の美青年たちや、不死人たちを生み出し操る謎の一団が暗躍。誰が敵で誰が味方かわからぬ状況の中、アルベールの真意は……


 というわけで、ゾンビの方にまず目が行きますが、今のところゾンビそのものの脅威よりも、その陰で蠢く――その多くが実在である――人間たちの謎めいた行動が物語の中心に据えられている本作。つまりは、本作は伝奇も伝奇、大伝奇であります。

 主人公が歴史上の有名人の身代わりとなったり、性別を偽って王宮に入るというのは、これは洋の東西を問わず定番の展開かもしれませんが、しかしその身代わりがあのマリー・アントワネットの、身代わりとなるのがその弟というのはインパクト十分と言えるでしょう。
 これで非命に倒れた姉の代わりに懸命に頑張って宮中でのし上がる――というわけではもちろんなく、アルベール自身が何を考えているのか、いや、人間なのかすらわからない人物なのだから恐ろしい。

 そしてそんなアルベールと敵対する者たちも、まともな人間ではない――というより、よりわかりやすく悪人(我々の倫理観に照らして)か、人間以外。そう、本作は主人公をはじめ、登場人物の多くが善人ではなければ、時として人間ですらない物語――何が善で、何が悪かもわからない世界なのです。
(数少ない常識人であり、少なくとも悪人ではないのはバスティアンですが、その彼もまた……)


 第1巻の時点ではこの物語の構図はまだ暖機運転(それでも普通の物語よりも遙かに高回転なのですが……)という印象ではあります。しかしそれが第2巻では、不死者の群れが現れた屋敷で、同時に「宝石」が奪われているという謎めいた事実が判明し、一気に事態は大きく動き出すことになります。
 果たして不死者が「宝石」を狙っているのか、はたまた――という展開の末に明らかになるのは、この人だけは、と思っていたある人物の意外な行動と、そして意外どころの騒ぎではないその目的であります。

 いやいやいや、それはさすがにどうだろう、と言いたるその目的ですが、しかし既に蘇った死者が徘徊する世界でそれを言うのも愚かというもの(というより、その不死者の存在がある意味証明であるのかもしれません)。
 しかし仮にその目的が果たされたとして、それが期待した通りの効果を上げるものか――それは本作のこれまでの物語を見る限り疑問であります。いやむしろ、それが新たな地獄の門を開くのではないか、という恐ろしさもあるのですが……


 本作において不死者に再び「死」を与えるためには、首を切り落とさなければなりません。首を切り落とす――それは「マリー・アントワネット」にとってどれだけ不吉な意味を持つか、現代の我々は知っています。
 果たして落とされるのは不死者の首か、「アントワネット」の首か――まだ見えぬその未来が大いに気になる物語であります。


 ちなみに本作のシナリオ協力は、『オブザデッド・マニアックス』などの著作がある大樹連司こと前島賢。色々な意味で納得の人選であります。


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