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2019.11.15

山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北からの黒船』 江戸に消えたロシア人を追え!


 ついにドラマ化も実現した『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』の最新作、シリーズ第6弾であります。江戸を現代を行き来するおゆうが今回挑むのは、護送中に脱走したロシア人船員にまつわる数々の謎。江戸時代後期の外交事情も踏まえつつ、おゆうの活躍が始まります。

 1822年のある日、常陸国鉾田に上陸し、代官所に捕らえられたロシア人船員ステパノフ。しかし長崎に移送されるはずだったステパノフは護送中に何者かの手助けで脱走、江戸市中に潜伏した可能性があることが判明します。
 伝三郎やおゆうたちをはじめとする、ごく一部の与力同心、岡っ引きに探索の命が下るのですが――しかし何分極秘の捜査のため、ステパノフの行方は杳として知れません。

 そんな中、自分たち同様に、鉾田代官所の手代がステパノフを追っていることを知ったおゆう。しかしその矢先に手代は何者かに殺害された姿で発見されることになります。
 それでも苦心の捜査の末、ある事件をきっかけに、ついにステパノフの潜伏場所を突き止め、捕らえた伝三郎とおゆう。しかしステパノフは駒込のとある武家屋敷に留めおかれ、おゆうはその世話に通うことになるのでした。

 そんな中で起きる第二の殺人。果たして一連の殺人とステパノフの関係は、怪しげな動きを見せる幕府の真意は。そして何よりも、ステパノフは何のために日本を訪れたのか――おゆうは、宇田川の助けで思わぬ真実の一端を知ることになるのですが……


 第4弾で歴史上の実在の人物と対面し、第5弾ではおゆうの現代でのブレーンである宇田川が江戸に登場と、この数巻、趣向を凝らした大きな動きが見られる本シリーズ。本作でのそれは、史実との――江戸時代の外交史とのリンクと言えるでしょうか。

 本シリーズの舞台となっている19世紀前半(正確な年代が明示されたのは今回が初めてかもしれません)は、日本近海に異国船が現れ、通商や外交を求め始めた時代。本作ではちょっと面白い形で登場した大黒屋光太夫のように、実際に海外の空気を吸った人間も現れた頃であります。
 そんな中、日本にロシア人が密入国を企て、江戸に潜入しようとすればどうなるか――作中でも言及されるように、ゴローニン事件はわずか十年前のこの頃、いつ日本とロシアの間に火がついてもおかしくない空気が、本作の背景にはあります。

 実は本作は、これまでの作品に比べると、ミステリ味や科学捜査要素は比較的抑え目なのですが――もっとも、今回も科学捜査のおかげで大きなどんでん返しが明らかになるのですが――この、大げさに言ってしまえば一種のポリティカルサスペンス風味が、本作の特徴といえるでしょうか。
 特に後半から終盤にかけて明らかになっていくステパノフの正体はなかなかに面白く、ある意味時間旅行者のおゆう以上に意外な秘密を背負った存在として印象に残ります。

 しかしそんなステパノフの中の唯一の真実が実は――と、泣かせる展開になっているのも心憎いところであります。
(作品自体のオチは途中で読めるのがちょっと残念ですが……)


 ちなみに前作でちょっとおゆうとの関係性の変化を見せた宇田川は、前作に比べれば出番は控え目なものの、相変わらず要所要所でおゆう以上の活躍を見せるのも楽しいところ。
 一方伝三郎の方も、今まで今一つ生きていなかったある設定が意味を持つ描写があったのが印象に残るところですが、さてこの設定が今後シリーズでどのような意味を持つのか。何だか宇田川がおゆうよりも先に気づいてしまいそうな気もしますが……

 何はともあれ、そんな三人の気になる関係も含めて相変わらず楽しく、肩の凝らないエンターテイメントである本作。この先もどのような趣向で攻めてきてくれるのか、楽しみにしたいと思います。


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