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2019.11.18

岩崎陽子『ルパン・エチュード』第4巻 大団円 重なり合いそして分かたれるルパンとジョジーヌの道


 ラウールとアルセーヌ、二つの魂を持つルパンの冒険を描く『ルパン・エチュード』は、いよいよ「カリオストロ伯爵夫人」完結編。激しい愛を交わした末に、今は敵意と憎しみをぶつけ合うルパンとジョジーヌ。二人の対決の決着は、そしてクラリスの運命は……

 天真爛漫な青年ラウール・ダントレジーの中に眠っていたもう一つの魂アルセーヌ・ルパン。周囲の悪意を感じた時に表に出ることができるルパンは、己を現実に繋ぎとめることができるカリオストロ伯爵夫人を名乗る美女・ジョジーヌと出会い、激しい恋に落ちることになります。
 彼女とともに、七本枝の燭台に秘められた莫大な財宝の秘密を追うルパン。しかし「ルパン」の存在を信じようとせず、そして何よりも目的達成のためには手段を選ばないジョジーヌから次第に心が離れていくのでした。

 そしてついにジョジーヌと袂を分かち、もう一つの財宝を狙う勢力であるボーマニャン一味と三つ巴の戦いを繰り広げるルパン。その中に、ラウールが愛する善意の固まりのような美少女クラリスも巻き込まれて……


 と、ルパンとジョジーヌ、クラリスが一堂に会するという、修羅場というほかない場面から、この第4巻は始まることになります。
 ルパンとラウールの関係を理解しないジョジーヌにとっては、クラリスは自分の恋人を奪う不倶戴天の敵。そんな魔女の手に落ちたクラリスを救うため、ルパンは財宝の謎を解くことになります。
 原作ではこの謎解きは、面白いものでありつつも、少々古めかしさを感じさせるものだったのですが、本作ではここにルパンとラウールの関係を二重写しにするという離れ業を見せてくれるのが心憎いところであります。

 そして二重写しといえば、本作においてはルパンとジョジーヌの姿もまた、そのような形で描かれているのに感心させられます。
 ラウールの体の中に眠り、限られた時にしか表に出られないルパン。親友であるヴァトー、そしてクラリス以外、誰もそのことを理解できない――すなわち、ルパン自身としてこの世に存在できないルパンの背負う孤独は、あまりに大きいと言うほかありません。

 そしてジョジーヌもまた、不老不死の美女・カリオストロ伯爵夫人という仮面の下でしか生きられない人間。「父」であるカリオストロ伯爵の名と、そして母の姿と名前――この二つを背負わされた彼女もまた、自分自身としてこの世に存在できないのであります。
 ここで描かれるのは、いわば犯罪と恋愛以外の、彼女のもう一つの顔――原作ではほとんど描かれなかったと感じられるこの顔を描き出したことは、本作の大きな収穫の一つと言うべきでしょう。

 そしてもう一つ、これほど似通った存在であり、一度は身も心も一つになりながらも、しかし決定的に道を違えた彼女と対比する形で、ルパンという人間の核にあるものを描いてみせたこともまた。


 さて、そんな相手であっても、いやそんな相手だからこそ、ルパンは負けるわけにはいきません。ここから先の戦いは一進一退、いや経験と組織力が上回るジョジーヌの勝利かと思いきや――しかし、最後にはルパンが高らかに笑うという痛快な展開で、物語は大団円を迎えるのことになります。
 が、ここで本作は、原作とは近しくも、大きく異なる結末を迎えることになります。その違いの詳細はここでは伏せませんが――おそらくそれはラウールの存在によるのでしょう――この改変がこれからのルパンの物語を大きく変えることは間違いないでしょう。

 しかし、本当に残念ながら、本作はここでひとまずの結末を迎えることになります。巻末の作者の言によれば、本当の本作の結末は、原作の第1話である『ルパンの逮捕』とのこと。今回の結末からそこに至るまでに何が起き、何が描かれるのか――それがすぐには読めないことは、無念と言うほかありません。

 しかし、アルセーヌ・ルパンという存在は、ラウール・ダントレジーという殻を破って表に出たのであります。今はまだ、本書の表紙のように鏡に映るかりそめの像でしかなくとも。
 だから私は信じるのです。「「アルセーヌ・ルパン」が陰から姿を現し世界を従える様子」を、「常識も理不尽もひっくり返して笑い飛ばす」痛快なその姿を、いつかまた必ず見ることができると……

 その日を待ち続けようと、本書を閉じながら誓った次第です。


 もう一つ心残りなのは、できればジョジーヌにはラウールときちんと会って欲しかった、という点であります。ラウールと会えるということは、それは――なのですから。


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