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2019.12.29

山口貴由『衛府の七忍』第8巻 総司が見た幕府の姿、武士の姿 そして十人の戦鬼登場!


 相変わらず絶好調が続く『衛府の七忍』、第8巻の前半で描かれるのは「魔剣豪鬼譚」沖田総司編の決着編。愛する人を鬼に奪われ、復讐のために鬼の前に立った総司の戦いの行方が描かれることになります。そしてこの巻のラストより、ついに七番目の怨身忍者・雷鬼が登場。その意外な正体とは!?

 突如、幕末から江戸初期にタイムスリップした沖田総司。あまりの状況に困惑しながらも、持ち前の明るさから周囲の人々を引きつけ、この時代で平穏な生活を手に入れたかに見えた総司ですが――しかし想い合っていた町道場の娘が鬼によって無惨な最期を遂げ、総司は鬼との戦いを決意することになります。

 強大な力を持つ鬼に対し、数を恃むはかえって被害を増やすだけ、強力な剣士による一騎打ちにしくはなし――というわけで、口から炎を吐く異形の鬼・虹鬼と対峙する柳生宗矩と、刀剣御試役・谷衛成が変じた旗本狩りの鬼・霓鬼に挑む総司。
 それぞれ超実戦派の技でもって鬼に挑む二人ですが、しかし鬼の超常の力の前には及ばず……

 かくてついに始まった剣豪と鬼の決戦。宗矩と総司――剣豪ファンにとってはたまらない名前ですが、本作の二人は、史実に伝わる彼らの姿を本作流にパワーアップさせた強烈な個性がさらにイイのであります。
 紳士然とした(?)髭にも関わらず、戦場往来の武者としての容赦ない戦いぶりを見せる宗矩、イマドキの好青年キャラでありつつ、戦いとなればヤクザ顔負けの超実戦剣法で挑む総司――こんな二人が見たかった、と快哉を上げるほかありません。

 しかし二人はあくまでも人間、肉体の上では鬼には及びません。虹鬼の放つ強烈な炎に、霓鬼の肉体の異常な回復力に追いつめられる二人ですが――ここで宗矩には思わぬ助けが現れます。
 それこそは吉備津彦命――すなわち元祖鬼退治・桃太郎! 本作において、徳川方に味方する最強の敵として幾度となく登場してきた桃太郎が、ついにその力を発揮することになります。

 一方、霓鬼が――衛成が何に憤り、何に哀しんできたかを戦いの中で知ることとなった総司。それでもなお戦うことをやめるわけにはいかない彼が見せる最後の最後の手段とは……


 タイムスリップという反則技を駆使して、ほとんど異邦人である総司の目を通じた幕府創生期の姿を描いてきた今回のエピソード。それは同時に、この時代の武士の姿を描いてきたともいえます。
 腕試しのために無辜の民を斬る、物よりも人の命を軽く扱い殺める、そして天下静謐のために制外の民を犠牲として顧みない――ここで描かれた武士たちの姿は、同じ名で呼ばれながら、総司とは大きく異なるそれであることは言うまでもありません。

 もちろん、総司とて決して罪なき身ではありません。新選組として、命じられるままに屍の山を築いてきたその手は、あまりに血塗られているとしかいいようがありません。
 それでもなお、彼が他の武士たちと――そしてあるいは総司と同じ側に立つかもしれなかった衛成と――異なる存在として描かれるのは何故なのか?

 その答えの一端は既に描かれていると感じられますが、このエピソードのラストを見れば、おそらくはこの先の物語――彼が怨身忍者たちと、あるいは他の魔剣豪たちと対峙した時に、改めて描かれるであろうと想像に難くないのであります。


 そして久々登場の波裸羅様の大暴れを描く単発エピソードに続いて描かれるのは、ついに登場する最後の怨身忍者・雷鬼――黒須京馬の物語なのですが、これがまたいきなり時代劇ファン、忍者ファンであればそそられないはずがない展開となります。
 何しろ京馬は真田信之に仕える少年忍者、そしてその兄貴分となるのは、信之の弟・幸村に仕えた十人の勇者――真田十勇士。そしてその勇士たちが、冒頭からその不敵な顔を見せるのですから、期待するなという方がむりでしょう。

 もっとも十勇士も大坂の陣で六人まで討たれ、残るは猿飛佐助・霧隠才蔵・穴山小助・筧十蔵の四人のみ。死んだ者も含めてほとんど顔見せにとどまっている状況ですが、勇士と言うより戦鬼と呼びたくなるような顔ぶれを見ただけでもうたまりません。
 そしてその十勇士が、何故信之の、いや京馬の前に現れたのかは、まだ第一話である現時点では謎ばかりではありますが――鉄面皮の京馬の内心を、超能力者である小助の表情の変化で描くという、抜群に見事な場面などを見てしまうと、この先の展開にはもう期待しかないのであります。


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