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2019.12.19

細川雅巳『逃亡者エリオ』第1巻 アップデートされた西洋伝奇物語開幕!


 中世のカスティージャ(スペイン)を舞台とした少年漫画として気になっていた『逃亡者エリオ』の第1巻が発売されました。地獄の監獄から自由の身となった青年エリオが、無実の罪を着せられた騎士の娘・ララを守り、自由と真実を求めて戦う冒険活劇であります。

 時は1350年、監獄内で千人の囚人を倒せば恩赦が与えられるという奇怪な掟のある監獄「ヘル・ドラード」200年の歴史で初めて、千人を倒して自由の身となったエリオ・サンチェス。

 わずか3年で千人を、しかも素手で殺さずに倒した彼は、出獄早々に街で枷をはめられ、周囲の人々から罵声を浴びせられる少女と出会うことになります。
 彼女の名はララ・レズモンド――騎士の家に生まれ育ちながら、伯爵殺害の疑いをかけられ、市中引き回しとなった末に、今は処刑を待つ身の少女であります。

 たとえ濡れ衣であろうとも、疑いをかけられた時点で罪を犯したも同じという当時の掟の前に膝を屈しかけていたララ。しかしただ一人彼女に手をさしのべてくれたエリオの助けで、彼女は生きる気力と誇りを取り戻します。
 そんなララを助け、ともに逃亡することとなったエリオ。彼の前には、法にどこまでも忠実な警吏長バルド、黒猫を連れた無邪気で残酷な暗殺者デボラらの強敵が立ちふさがることに……


 近年は特に青年漫画で海外を舞台とした歴史ものが多く見られますが、本作は、そんな中でもかなりユニークな部類に入る、14世紀のスペインを舞台とした物語。
 果たして疑われるだけで有罪という、今の目で見れば乱暴というしかない奇怪な掟が、本当にあったのかは不勉強のためわかりませんが、中世という時代であれば――と信じさせられてしまうのは、これは舞台設定の妙でしょう。

 そしてその掟によって命と誇りを奪われる寸前であった少女を救うのが、殺人者として牢に入れられていた青年というのも面白いところであります。
 そのいかにも少年漫画チックな監獄の掟もユニークですが――そんな中にあっても飄々として、そして人間らしさを失わないエリオのキャラクターは、一歩間違えれば非常に重く、殺伐としたものになりかねない本作に、一種の活力と明るさを与えていると言えるでしょう。

 これは早々に明らかになることなので書いてしまいますが、実はララが無実の罪を着せられ、命を狙われる理由は、彼女の出生の秘密――それも史実にリンクした――にあります。
 この、秘密を持った少女を救う義侠の好漢というシチュエーションは、これは考えてみれば西洋伝奇物語に定番のシチュエーションと言えます。そう、本作は様々に現代風のデコレーションはされているものの、この西洋伝奇物語を見事に少年漫画として復活させてみせたのであります。。

 ちなみに上でも述べましたが、エリオの武器は己の拳。剣を持った相手であっても素手で戦う(牢獄からそのままつけてきた手枷を防具代わりに使うのも面白い)というのも、やはりアレンジの一つといえるかと思いますが――それがエリオの自由さの現れとも感じられるのが、また良いのであります。


 さて、物語が進むにつれ、事件の根源はカスティージャ王家の跡目争いにあることが明らかになっていきますが、この当時の王は、「正義王」ことペドロ1世――素晴らしくインパクトのある異名ですが、後世にはとかくの逸話が遺る人物であります。
 この巻のラストにはこの正義王ペドロが登場、ララとエリオの前に立ちふさがることが予告されるのですが――しかし無一物で己の誇りと自由を貫こうとするエリオとララにとって、この絶対君主は相手にとって不足なし、と言うべきでしょう。

 この先、どのような痛快な冒険活劇が繰り広げられることになるのか――アップデートされた西洋伝奇物語のこの先が楽しみでなりません。


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