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2019.12.08

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第18巻 鬼の過去と、人の因縁と

 この巻の初版が100万部と、ちょっとびっくりするくらい景気の良い状況の『鬼滅の刃』。栗花落カナヲが表紙のこの巻で描かれるのは、水の呼吸の兄弟弟子と上弦の参・猗窩座との決着戦、そしてカナヲと上弦の弐・童磨との対決であります。その戦いの中で描かれる過去と因縁とは……

 鬼舞辻無惨を巻き込んでのお館様の自爆を烽火代わりに始まった無限城での最終決戦。仇敵・童磨を前に蟲柱・胡蝶しのぶが最期を遂げ、かつての兄弟子であった上弦の陸・獪岳に善逸が快勝し――と激闘が続く中、ついに炭治郎は宿敵と対峙することになります。
 かつて炎柱・煉獄を倒した猗窩座に対し、兄弟子たる水柱・冨岡義勇とともに挑む炭治郎。頼もしい味方とともに、そしてかつての自分から大きく成長した剣で猗窩座と渡り合う炭治郎ですが――しかしそれでもなお、実力差は歴然として存在するのであります。

 絶体絶命の窮地の中、炭治郎の心をよぎるのは、かつて病で余命幾ばくもなかった父が、巨大な熊の首を断ってみせた姿。そして相手の闘気を頼りに超反応を見せる猗窩座に対し、一切の闘気を断った「透き通る世界」の境地に達した炭治郎の刃がついに……


 と、この巻の開始早々決着か、と思われたこの戦い。しかしドラマとしては、むしろここからが始まり――この先に描かれるのは、これまで失われていた、猗窩座が鬼になる前の、人間であった頃の記憶なのであります。

 かつて病気の父のために様々な罪を犯しながらも、そのために父を喪い、自分は江戸処払いとなった少年時代の猗窩座=狛治。流れ流れた先でとてつもなく強く、そして気のいい道場主・慶蔵と、病弱なその娘・恋雪と出会った狛治は、二人に迎えられ、道場で共に暮らすようになります。
 二人との暮らしの中で、ようやく父の遺言通りに真っ当な生き方を手にしたかにみえた狛治ですが――嗚呼!

 本作ではすっかりお馴染み、というよりも本作の大きな魅力の一つである、鬼たちの過去。炭治郎の宿敵たる猗窩座にも、当然描かれるべき過去が、それも相当にドラマチックなものがあるに違いないと誰もが考えていたはずですが――ここまでのものであったとは。

 異常なまでに強さを求め、弱者を憎む。至る所に入れ墨の入ったような体で無手の武術を振るう。氷の術を使うわけでもないのに技を放つときは雪の紋様が現れ、そして花火にちなんだ名を持つ奥義を放つ。
 そんな猗窩座という鬼を構成する要素の一つ一つに込められたものを思えば、彼のこれまでの言動がまた違ったものに見えてくるのであり――そしてそれはまさに本作ならではものと言うべきでしょう。
(にしてもこれだけ描いた上に、なおおまけページを使ってまで補完される過去とは!)


 さて、この死闘の次に描かれるのは、童磨と、炭治郎の同期であるカナヲの対決。冒頭に述べたとおり、自分を仇と狙うしのぶを斃した童磨ですが、しのぶの弟子であったカナヲにとってはこれは仇討ちに――ある意味二重の仇討ちに当たることになります。

 しかしカナヲが剣技にどれだけ天賦の才を持とうとも、レスバで異常なまでの煽り性能を発揮しようとも、そして仇敵に激しい怒りを燃やそうとも――それでもやはり埋められないのは、上弦の鬼との実力差であります。
 何しろ童磨は猗窩座を実力で負かして上弦の弐の座に就いた男。明るく親しげな見かけと態度に似合わぬ多種多様な血鬼術にカナヲが追いつめられた時――思わぬ乱入者が!

 本作で乱入といえばあの男しかいませんが、しかしカナヲとも童磨とも繋がりはなく、最終決戦でのこれまでの戦いに比べれば、因縁というものが欠けるのでは――と思いきや、明かされるのは意外な真実。
 あるいは伏線ではと思われた彼の過去が、ここでしっかりと使われたわけですが――皆が過去の因縁持ちすぎという印象は否めないものの――しかしやはり、天涯孤独と思われていた男が、己の大切な者の仇討ちのために立ち上がるという展開は、大いに燃えるものがあります。


 かくて意外な局面を迎えた上弦の弐戦、果たしてこの先如何なる展開を迎えるのか――という実に心憎いところで、次巻に続くことになります。


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