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2019.12.06

『無限の住人-IMMORTAL-』 九幕「群 むら」

 尸良に訴えられ、辻斬りとしてお尋ね者になった万次と凜。以前飯盛女から聞いたある話に賭けて、万次を置いて一人、小仏関の近くの村に向かった凜は、そこで関を抜ける手助けをするという宿を訪れる。主人の惣八・砂登夫婦の助けを得て関の奉行と対面したものの、厳しい尋問を受ける凜だが……

 今回は、個人的には原作でもかなり好きな、凜の関越えのくだりを丸々一回使って再現。アクションはほとんど全くない内容ですが、凜と奉行の息詰まる駆け引きが実に良いエピソードであります。
 何しろ原作の廉価版コミックでは「流離の関所越え編」のタイトルで刊行されている上に、「凜が「小仏の関」突破を図る顛末は、作中屈指のバトルだ!」と宣伝されているのですから、こう考えているのは私だけではないのでしょう。

 さて、前回尸良が惨殺した二人+瀕死の一人の濡れ衣を着せられて(自分の罪を他人に密告の形でなすりつける辺り、尸良のヒューマンダストっぷりが実によく出ている)、天津を追っての関所越えどころか往来を歩くことすら難しくなってしまった主人公二人。
 今まであれだけ往来で斬り合ったりしていた割りには、急にリアリティレベルが上がった気もしますが、以前言及されたように、今まで逸刀流絡みの事件は見逃されていたということなのでしょう。もっとも、この件がなくとも百人斬りの万次が真っ当に関を越えられるわけもないのですが……

 何はともあれ、自分だけなら抜けられるかも! とまたもや単身飛び出した凜は、小仏関の近くの村の宿屋を訪れ、主の惣八に養女にして欲しいと言い出すのですが――養女!? と思いきや、これは一種の隠語のようなもの。村人が関の下番役に就いている関係で、村人は関を越えるのに手形不要、その余得は一族縁者全てに及ぶ――ということで、要は金をもらって縁者と偽り、関を越えさせるのがこの宿屋の副業だったのです。
 しかし数年前に失敗して依頼者の娘が処刑されて以来、副業はやっていないという惣八と砂登を説き伏せて――というよりあることで以て砂登の側に覚悟を見せて――関に向かう凜ですが、さてお話はここからが本番であります。

 凜の顔が辻斬りの手配書に似ていると見て取り、砂登の妹を名乗る凜にあの手この手で尋問を行う関の奉行・島田。これに対し、凜は事前に覚えておいた妹の設定を諳んじて軽々とクリア。
 さらに両親は健在かと問われて、涙ながらに過去に起きた悲劇のことを語るのですが――このくだり、あまりにも芝居がかり的に凜の台詞に感情が過ぎて、さすがにちょっと浮いている感は否めませんが、しかしそれに合わせて、バックで凜の(実の)両親の悲惨な最期の映像を流すのは、うまい演出でしょう。なるほどこれならば感情も篭もるわい、と納得であります。

 さらに島田奉行の最後のいじわる質問に対し、文字通り体を張っての迫真のリアクション(ただ、この場面のBGMが――非常に合わない)で突破。ここで島田奉行の――たぶん察しがついているにもかかわらず、凜の胆力と体当たりぶりに免じての――名台詞「大した女だ」(ちなみに島田役はベテラン・てらそままさき)が、実に渋く物語をシメてくれるのもグッとくるのであります。


 冒頭に述べたとおり、アクションなしで関所越えの攻防を描いた今回、(考証的にどうなのかはわかりませんが)これまでとは大きくリアリティレベルが上がり、身も蓋もないことをいえば、良くも悪くも地味になっていく本作を象徴するエピソードとも感じますが――それでもなお、息詰まるバトルを描いた面白い時代劇であったことは間違いありません。
(脇役の惣八・砂登夫婦と島田奉行もまた実にイイキャラで……)

 正直なところ、全体の流れから言えば省略しても成立するエピソードではありますが、しかし今回こうしてきっちり映像化してくれたのは、やはり嬉しいことであります。

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 無限の住人

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