野田サトル『ゴールデンカムイ』第20巻 折り返し地点、黄金争奪戦再開寸前?
記念すべき第20巻、そして物語的にも一つの折り返しを迎えつつも、色々な意味で通常営業の『ゴールデンカムイ』。遂にアシリパと再会を果たした杉元の決意、新たな第七師団の強者の出現、そして鯉登と鶴見の馴れ初めと、様々な角度から物語が紡がれていくことになります。
アシリパの父の同志だった女傑・ソフィアの脱獄と期を一にして、ついに樺太の氷原で遭遇することになったキロランケ・尾形組と、杉元・第七師団組。激しい戦いの中でアシリパの毒矢を受けた尾形は瀕死となり、そして第七師団の三人を相手に獅子奮迅の立ち回りを見せたキロランケも、ついに力尽きることになります。
そして再び出会うことができた杉元とアシリパは、再びアイヌの黄金を追う相棒としての契約を結ぶことになります。
父は何故黄金を隠し、自分に託したのか――その謎を追いかけようとするアシリパと、一刻も早く黄金を見つけてアシリパをその運命から解放しようとする杉元と、想いは異なるものの、ここに再び二人+αの旅が始まることになったのであります。
そしてそこから本作お馴染みの場面転換で描かれるのは登別の温泉地――第七師団の療養地であるかの地で傷を癒していたのは、菊田と有古という屈強な男二人。
鶴見への手土産にと、有古が聞きつけてきた奇妙な格好の男の噂に興味を抱く菊田ですが、彼らに近づくのはその噂の男である刺青脱獄囚の一人・都丹庵士で……
と、正直なところ、いきなり新たな敵が補充されたな、という印象のある今回の展開。さらに彼らと戦うのが、既に一度杉元に敗れている都丹というのもピンとこない点なのですが――しかし、戦闘中のちょっとした動きから、特務曹長の肩書きは伊達ではないと感じさせる菊田と、かつて八甲田山の遭難者捜索に駆り出されたアイヌである有古と、やはりキャラクター造形の面白さはさすがであります。
同じく登別にやってきた二階堂と宇佐美の面白変態組とは大きく異なるものを感じさせる、どちらかと言えば月島や谷垣に近いものを感じさせるキャラクターであって――この先どのような活躍を見せてくれるのか、気になる面々であります。
さて、舞台は再び樺太に移って、杉元とアシリパの心を曇らせるのは、尾形の容態。杉元にとっては己を殺しかけた憎い敵ではありますが、アシリパの手を汚させないためには、尾形には生きていてもらわなくてはなりません。
そんな複雑な心境の中で、尾形の脱走を聞いて追いかける杉元の微妙な表情の描写が見事なのですが――しかしここで物語は思わぬ方向に移っていくことになります。鯉登の過去へと……
海軍の名軍人を父に持ちながらも、日清戦争で壮烈な戦死を遂げた兄にコンプレックスを感じ、荒れていた少年時代の鯉登。そんな彼と初めて正面から向き合ってくれたのは、北海道から来た軍人・鶴見篤四郎だった――と、傍から見れば完全に「優しいおじさん」ぶりを発揮する鶴見の姿が恐ろしいこの過去編は、さらに意外な方向に進んでいくことになります。
鶴見の出会いから数年後、ロシアのスパイと思しき一団に誘拐された鯉登。敵の狙いが父にあると知った彼は、ある決意を固めることになります。
そしてそれを知った父の意外な行動、そして彼らを救おうとする鶴見――と、緊迫する展開の中で無茶苦茶なアクションとギャグシーンを投入してくるのがいかにも本作らしいところですが、しかしここで描かれるのは、鯉登父子の感動的な和解の姿(そして鯉登のハートを完全に射抜くキメキメの鶴見)。
色々と煙に巻かれた末に、なんだかイイ話になった!? というのがこれまた本作らしいのですが、鶴見が絡んでいてイイ話で終わるはずがない。その証拠に――と、この巻ではまだ明示されぬものの、再び時間軸が現在に戻った時に、ある疑念を抱かせる構成は見事というべきでしょう。
様々な人々が鶴見の思惑に絡め取られていく中、やはり今はまだ第七師団の監視下にある杉元とアシリパ(と白石)。しかし彼らばかりは、そんな軛など気にせずに、すぐに飛び出してみせることは間違いありません。
しばらく敵味方がシャッフルされていましたが、再び三つ巴の(あるいは四つ巴?)の大乱戦が――黄金争奪戦が再び始まる日も遠くありません。
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