岡田屋鉄蔵『MUJIN 無尽』第7巻 ついに羽ばたくあの男たち!
伊庭八郎の青春記も順調に巻を重ねてもう第7巻。今回の表紙は試衛館の近藤と土方ですが――ついに彼らに雄飛の時がやってきます。そして江戸に残った八郎の周囲も少しずつ動き始め……
ある事件をきっかけに尊皇攘夷集団・虎尾の会と事を構えることになった八郎。その戦いはやがて、彼らの同志とも疑われる山岡鉄舟との試合に繋がっていくことになります。
死と隣り合わせのこの試合をくぐり抜けた八郎ですが、今度は会の首魁ともいうべき清河八郎が家を訪ねてきて……
と、いきなりの展開に驚かされた前巻から続くこの巻の冒頭ですが、大胆にも八郎の前に現れた清河の目的こそは、八郎を浪士組に勧誘することだったのであります。
時に爽やかに、時に熱く、時流を弁じて止まない清河。そもそも八郎襲撃を画策した(と疑われている)男が大胆にもほどがありますが、しかしそれでも弁舌で以て人を軽々と動かすだけの力が、この男には備わっているのでしょう。
しかし同じ八郎同士であってもこの二人は水と油。片や幕府の、いや将軍の剣とも楯ともなろうという八郎と、倒幕と尊皇攘夷のために暗躍する清河と――もちろん清河も八郎の前では倒幕の意はおくびにも出しませんが、しかし八郎の目を誤魔化せるものではありません。
かくて失敗に終わる勧誘ですが――しかし、ここからある意味大きく歴史が動き出すことになります。
幕府を味方につけ、八郎の練武館をはじめとする名門道場で参加者を募る浪士組。しかし各道場はいずれも相手にせず、弱った幕府は、その他の道場に声を掛けることとなります。そしてその中には、試衛館も……
今こそこの腕を振るう時が来た、と勇躍浪士組に参加する近藤・土方・沖田・山南・永倉・藤堂・井上の面々。そして京に上ることとなった彼らを何が待ち受け、そしてその先で彼が何になるのか――それはここで言うまでもないでしょう。
そう、冒頭のとおりこの巻の表紙は近藤と土方なのですが、八郎は少しだけ後ろに引いて、まさにこの巻の主役は二人が――試衛館の面々が持って行った感があります。
これまで八郎の気が置けない友人たちとして、そして何よりも共に剣の道に励む同志として、幾度も登場し、魅力的に描かれてきた試衛館の面々。この巻で描かれるのは、その彼らが、幕末に名を刻んだあの集団へと生まれ変わろうとする姿なのであります。
そんな中、特に熱く描かれているのは、京への出立を前に訪ねてきた近藤に対して、八郎が清河への疑念を語る場面であります。
これまでの虎尾の会との因縁と清河の暗躍を告げ、引き留めようとする八郎。しかしそれを聞いた近藤の答えこそは――まさに近藤! と大きく頷かされるような姿。彼の颯爽とした武者ぶりがたまらないのです。
第2巻での初登場以来、実にらしいビジュアルと言動で、新選組ファンの心を掴んできた本作の近藤と試衛館の面々(源さんはちょっと老けすぎ感もありますが……)。
もちろん本作の主人公が八郎であることは間違いありませんが――しかし彼とは全く生まれも育ちも違う、それでいて彼とは同格の若者たちとして、彼らは本作で大きな位置を占めていたと言えます。
その彼らが羽ばたこうとする時なのですから、その姿を格好良く描かずにはいられないという想いが伝わってくる――というのはこちらの勝手な妄想ですが、しかし近藤の言葉を受けての八郎たちのこれまた見事な言葉といい、実に爽やかかつ熱いものが伝わってくる名場面であることは間違いありません。
そして若者たちが羽ばたいていったその裏で、そのきっかけを作った者が地に伏すのも史実が示すとおりなのですが――それにしてもちょっと衝撃的なまでのあっさりさに吃驚――その間も、八郎の人生は続きます。
八郎の義父が将軍警護のために上洛し、その間、講武所での勤めも道場の運営も任され、これまでになく忙しい日々を送ることになった八郎。そんな中、幕府の命で講武所の同僚たちとともに横浜視察に出かけた八郎は、新鮮な西洋の事物に目を輝かせる一方で、そこで最新の西洋銃の威力を目の当たりにすることになります。
あるいは自分たちの剣を無用の長物にするかもしれない存在に複雑な感慨を抱く八郎ですが――その危惧が現実のものとなるのは遠いことではないことを、我々は知っています。
今は青春の盛りを生きる八郎ですが、一足早く修羅場に飛び込んでいった友人たちのように戦いに向かう日が描かれるのを、見たいような見たくないような――そんな複雑な気持ちにもなるところであります。
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