「コミック乱ツインズ」2020年2月号(その二)
「コミック乱ツインズ」誌、2020年2月号の紹介の続きであります。様々な個性が集う本誌らしく、今回もユニークな作品が並びます。
『カムヤライド』(久正人)
埴輪をセールスしにきたら、他人の空似(?)で大王から抹殺命令を出されてしまったモンコ。その命を受け、配下の「黒盾隊」とともにモンコを襲うオトタチバナ。そんなこととは露知らず、トレホと話し込んでいるヤマトタケル。そして彼らを探してヤマトに現れたウズメの同族(?)であるコヤネとイシコリドメ――ヤマトを舞台に、入り組みまくった人間関係が、物語を動かしていくことになります。
そんな中でも、やはり一番注目してしまうのは、遂にカムヤライドに変身したモンコとオトタチバナメタルの本格対決。ついに日本史上初のヒーローバトルが――と思いきや、ここでさらりとヒーローの心意気を語ってオトタチバナたちを受け流してみせるモンコが最高に格好良い。
オトタチバナの方も、肉体に鎧を装着するのではなく、鎧に魂を宿らせるという独特の変身スタイルを利用した、意外に(失礼!)クレバーな戦闘スタイルからの必殺技を見せてくれたのですが――ここはモンコの方が役者が上だったと言うべきでしょう。
何しろあれだけスマートに、小粋に逃走を決められたら、それは人外だって胸のときめきが――ん?
何だかとんでもないものを見てしまった気がしますが、さらにとんでもないのはこの後。なかなか見つからないモンコたちに業を煮やしたイシコリドメは、懐から取り出したコンパクト(?)で変身! そのパターンといい、変身後のビジュアルといい、これまた時代を数千年先取りしたような代物で――この調子では、全ての変身ヒーローの原点は古墳時代にあったことになりそうです。(おそらくウ○○○○○も最後には登場するでしょうし……)
それはさておき、ヒーローをおびき出すために怪人がやることといえば一つ。この先、どんな惨劇が描かれることになるのか、そしてそれにヒーローたちはいかに立ち向かうのか――注目です。
『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
義姫による政宗毒殺未遂の前後から、特に重いムードが続く本作。母を誅するわけにはいかず、代わって、というのが適切かはわかりませんが、弟である小次郎を誅することを決意した政宗は――と、ついに事ここに至ってしまったか、という印象であります。
もちろん今回もギャグは織り込まれるものの、しかし当然と言うべきか、どうにも辛い――と思いきや、いきなり政宗がずいぶんと男らしい選択を!?
本当にこんなことをして大丈夫なのか、そしてどちらに転んでも絶対哀しいことになる状況で次回に続きます。
『鼓草の根』(鶴岡孝雄)
これまでも何度か読み切りが掲載されている作者の新作は、とある藩を舞台とした、独特のムードを湛えた剣術ものであります。
かつては道場で「鬼刃」と呼ばれたほどの腕を持ちながら、今は郷廻役として自然の中で静かに妻子と暮らす半田直次郎。しかし突然組頭に呼び出された彼は、近頃城下で次々と腕に覚えのある者を叩き潰す剣士・赤沼との立ち合いを命じられることになります。
かつて奉納試合で自分の息子を破られた家老の意趣返しであることは明らかながら、辞退することも許されず、城内で赤沼と試合に臨む半田は……
舞台といい物語といい、さらに(まことに失礼ながら)絵柄といい、何とも地味な本作。かなりのコマで半田が伏し目がちの表情をしていることもあって、ひたすら重いムードが続きます。
しかし、それまでの剣士としての人生を捨て、ようやく地に足のついた暮らしを送ることにも慣れてきた半田の姿には、何となく身につまされるものがあるわけで――もちろんこれは個人の感想ですが――かつての自分が属していた世界に背を向けて、家族の元に帰っていくのも立派な生き方であるよな、と半ば自分に言い聞かせるように感じ入ってしまった次第です。
次号は巻頭カラーで『勘定吟味役異聞』が新章突入のほかは、基本的にレギュラー陣が通常営業で掲載される模様です。
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