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2020.01.24

ロバート・ウェストール『ブラッカムの爆撃機』(その二) 戦争のもたらす死とそれに抗する生の希望と


 ロバート・ウェストールが描く奇怪な戦争物語『ブラッカムの爆撃機』の紹介の続きであります。本作で我々を震え上がらせてくれる怪異。それが示すものとは――

 爆撃機の中で仲間たちと軽口を叩きながら、ドイツ本土に爆弾を落としてきたゲアリーたち。彼らにとって最も身近な死は、それまで」敵ではなく自分たちの方のものでした。
 しかし、それが一度「敵」の死を――不幸なゲーレンの最期を目の当たりにした時、彼らはほとんど初めて、自分たちの行為の意味を知ることになるのです。敵もまた人間なのであり――さらにいえば、自分たちが無数に降らせる爆弾の下にも人間はいるのだと。

 もちろん、本作はその行為に単純に善悪の判断を下すものではありません。しかしその事実を知った直後のゲアリーたちが、ほとんど「死」に取り憑かれたような状態となったことを思えば――ウェストールが戦争に対して向ける眼差しが含むものの意味は明らかでしょう。
(そしてそんな彼らに対する親父のケアがまた実に見事なのですが――実にそれは、本作を覆う戦争が生み出す「死」に対する最大の反撃であったことが後にわかります)


 しかし本作のユニークな(人によっては困った)点は、本作が単純に反戦を声高に謳っているだけではないことでしょう。それは上に述べたある種フラットな視点にも表れていますが、より明確な表れがあります。

 と、突然ながら、ここで私が本作を読んだ版を紹介すれば、それは岩波書店から2006年に刊行され、今なお版を重ねている版であります。本作の他に短編『チャス・マッギルの幽霊』『ぼくを作ったもの』が併録され、背表紙には「ロバート・ウェストール作 宮崎駿編 金原瑞人訳」とクレジットされていて――宮崎駿!?
 そう、本書にはウェストールの作品、なかんずく本作に惚れ込んだ宮崎駿のエッセイ漫画『タインマスへの旅』が併録されているのであります。

 正直なところ、本書を手に取った時には宮崎駿がかなり前面に押し出された作りに――そもそも表紙だけ見ると、本書は誰が書いたものなのかすらわかりにくい――鼻白んだものでした。
 しかし宮崎駿が空想の中でウェストールと対面し、その作品の方向性を語り合う『タインマスへの旅』は見事な本作の見事な解題であり、そしてより即物的にいえば、見開きで描かれた爆撃機の図解は、本作の理解に非常に役立つものであり、この組み合わせには大いに納得したものであります。

 ――さて、話がずれましたが、ここで宮崎駿がほとんどファン目線で語っているように、本作は純粋に戦争文学として見ても、非常にリアルに感じられるものであり――これが真実のものであるかはもちろんわかりませんが、少なくとも本作の爆撃機描写の緻密さは凄まじい――そしてそこで描かれるものは、実に魅力的に感じられるのです。
 これはもう作者の愛ゆえ、作者は純粋にこういうものが好きだとしか思えない――好きという言葉が適切でなければ、並々ならぬ関心があったとしか思えないところであります。

 なるほど、この辺りの戦争(あるいは兵器)に対する複雑な視線は、まさに宮崎駿のそれと重なる――と感心したのですが、いずれにせよ、そんな作者だからこそ描けるものが、本作にはあります。戦争文学と、児童文学と、ホラー――その三つを自分自身のものとして描ける作者ならではのものが。
 だからこそ本作は――戦争がもたらす死と、それに唯一抗することができる生の希望を描く本作は、複雑で、そして豊饒な味わいを持つのでしょう。


 ちなみに先に述べた併録作『チャス・マッギルの幽霊』『ぼくを作ったもの』についても簡単に紹介しておきましょう。

 『チャス・マッギルの幽霊』は、主人が疎開した屋敷に一家で住むことになった少年チャス・マッギルが、屋敷にあるはずのない部屋に蠢く者の存在を知り、ついにそれと出くわして――という短編。「幽霊」と言いつつ実は――というひねりも面白く、またチャスの機転がもたらす非常に心温まる結末が印象的なのですが、しかし人間何度も戦争という愚行を繰り返しているのだな、という苦味も見逃してはならないでしょう。

 また、『ぼくを作ったもの』は、作者と、第一次世界大戦に従軍した祖父の物語。気難しい祖父がふとした時に見せる人間性と、やがて二人が辿る和解の姿、そして作者に遺したもの――それらを通じて、戦争に対して人間ができること、ある種の希望を描いてみせる、掌編ながら印象的で象徴的な一編であります。


『ブラッカムの爆撃機 チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの』(ロバート・ウェストール 岩波書店) Amazon
ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

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