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2020.01.13

『妖ファンタスティカ2』(その二) 彩戸ゆめ・獅子宮敏彦・杉山大二郎


 操觚の会の伝奇アンソロジー「妖ファンタスティカ」第2弾の紹介であります。今回もバラエティに富んだ作品が続きます。

『にっかり青江』(彩戸ゆめ)
 あの生真面目な唐変木であればと、信長から妖刀と名高いにっかり青江を与えられた柴田勝家。はたして勝家の前に赤子を抱いた女の幽霊が現れ、刀を打った刀鍛冶に殺されたその女房だと語るのでした。
 その身を憫れんだ勝家の真心が通じたか赤子は成仏し、後に残された女の幽霊。いつしか勝家の話し相手となった女は、ある時、勝家の慕う「あの女性」が秀吉に奪われてしまうと語るのでした。その運命を変えるための代償を告げられた勝家は……

 よく考えてみれば本書で初めての戦国ものである本作。それだけ本書がバラエティに富んでいるということですが、本作自身もなかなかユニークな作品であります。
 その奇妙なネーミングと由来から、妖刀の中でも知名度が高いと思われるにっかり青江。私は恥ずかしながらこの刀が柴田勝家のもとにあったとは知らなかったのですが――剛直というイメージの強い勝家と、妖女にまつわる怪談を持つこの刀という組み合わせの妙に感心させられます。

 そして不思議な共存関係となったものの、女が勝家の運命を変える選択肢を突きつけてきて――と、これはどう考えても勝家にとってロクなことにはならないと思いきや、そこから鮮やかに捻りを効かせ、爽やかさすら感じさせる結末に繋げていくのが心憎い。
 確かに剛直だけではなかった勝家の姿と、妖刀の由来を巧みに絡み合わせた結びには膝を打ちました。


『推古朝魔獣騒動記』(獅子宮敏彦)
 聖徳太子の命で、駿河に向かった探リ部の少年・穂牟豆(ほむず)と、志能備の少女・多由那。彼らは海の彼方から現れるという魔獣・牙璽威羅の伝説が残るこの地で、高い岸壁に掘られた洞窟の中で男が死んだ事件を探索しにきたのでした。
 人が容易に出入りできない洞窟で男を焼き殺せるのは、口から炎を吐くと言われる牙璽威羅のみ――と地元の人々。それに対す穂牟豆の推理は……

 本書にも執筆陣が数多く参加している時代ミステリ競作『ヤオと七つの時空の謎』に掲載された『聖徳太子の探偵』のいわば前日譚に当たる本作。そちらで実質的に主人公を務めた穂牟豆が、こちらでも名推理を見せることになりますが――言うまでもなく穂牟豆はあの世界的に有名な名探偵のもじりであります。
 この探偵で「魔獣」とくればあれしかないと思いきや、その「魔獣」がゴ――という、二重三重のパロディぶりにはひっくり返りました。

 さらにトリックも相当の剛腕ぶりで驚かされるのですが――これまた伝奇っぷりが見事な真犯人といい、穂牟豆と多由那(意外な武器を使ったアクションがまた見事)の関係の甘酸っぱさといい、破天荒ながら楽しい作品で、これはこれで是非独立したシリーズとして見てみたいと感じさせられます。


『不死将光秀』(杉山大二郎)
 斎藤義龍に攻められ、炎に取り巻かれた若き日の明智光秀。天下に静謐をもたらすという理想も遠いまま命尽きる無念を抱いた彼の前に現れたのは「魔王」――は、四度光秀の体を使わせることを条件に、彼を不死の身に変えてやろうと申し出るのでした。
 その取り引きに乗り、魔王に体を貸した光秀。比叡山焼討ち、本願寺との戦いでも光秀の体を借りた魔王が、最後に彼の体を借りたのは……

 本書とほぼ同時期に刊行された『嵐を呼ぶ男!』で歴史小説デビューした作者が、その信長を討った光秀を主人公とした本作。信長ほどではないにせよ、様々な形で――その中には超自然的存在も含まれるのですが――描かれてきた光秀ですが、本作の姿はなかなかに凄まじい。
 もはやデビルマン状態で暴れまわる、光秀無双ともいうべき姿は、かなり珍しいものではないでしょうか。

 その一方で、何故光秀がこれほど信長に固執したのか、魔王が何故四度――それもこのタイミングで――光秀の体を使ったのか等が語られていなかったり、史実の上で信長が同じ魔王と名乗った(当然本作の「魔王」のイメージソースとしか思えない)点がスルーされていたりと、色々と惜しい点もある作品ではあります。


 思ったよりも長くなりました。次回に続きます。


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