« さいとうちほ『輝夜伝』第4巻 二人天女、二人かぐや姫の冒険!? | トップページ | 『無限の住人-IMMORTAL-』 十五幕「臓承 ぞうしょう」 »

2020.01.17

ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第2-3巻 応仁の乱の最中のホームドラマが生み出す「共感」


 伊勢新九郎こと後の北条早雲の姿を描く『新九郎、奔る!』――第1巻をご紹介した後、紹介しようしようと思っているうちに時間は流れ、第3巻まで発売されたため、今回は第2巻と第3巻を合わせてご紹介いたします。ついに始まった応仁の乱の渦中で翻弄される新九郎の、伊勢家の人々の運命は……

 室町幕府の政所(財政担当)執事・伊勢貞親の義弟である父に呼ばれ、京で腹違いの兄・八郎や姉の伊都と暮らすことになった少年・千代丸(新九郎)。早々に貞親や両親が政争の末に都落ちという波乱の中で始まった千代丸の京での生活ですが、更なる波乱が彼を巻き込むことになります。
 それは応仁の乱――細川勝元の近くに仕えることとなった千代丸ですが、勝元と山名宗全の対立を原因の一つとして、乱が勃発することになります。

 その騒乱の中で少しでも早く周囲の役に立つべく、千代丸は元服して新九郎と名乗るのですが――しかしもちろん、彼が元服したからといって何が変わるはずもありません。
 発石木(カタパルト)の投入や足軽を利用した狼藉など、勝元の形振り構わぬ反攻が続く中、乱はいよいよその規模を拡大し、被害を広めていくことになります。

 そんな中、帰還した父と共に現れたのは、駿河から来た守護職・今川義忠。その義忠が伊都を見初めて婚約するなど明るい(?)出来事もあったものの、なおも先が見えない状況は続きます。
 そんな中、京に帰ってきた八郎。今出川様(足利義視)の近くに仕え、彼に従って京を離れていた八郎のその顔は……


 第2巻冒頭で元服して新九郎と名乗り、いよいよタイトルロール登場となった本作。登場人物も増え続け、ちょっと気を抜くと伊勢家関係者の中でも誰が誰だかわからなくなるほどなのですが――そこにさらに、複雑なことでは定評のある応仁の乱の勢力分布が絡むのですからもう大変であります。
 しかしその大変さも違和感なく飲み込める――というより、大変さを大変なままで何となく理解させてくれるのは、本作が新九郎の、いや彼だけでなく伊勢家の人々の目から、そして彼らの立場から、当時の社会を描いている点にあるのでしょう。

 これは第1巻の時点からなのですが、本作を読んだ時にまず受けるのは、「面白い」はもちろんのことながら、むしろ「巧い!」という印象であります。
 応仁の乱という大きな歴史と新九郎の個人史を絡める手法の面白さや、キャラクター描写の巧みさ、そして適度に投入されるコミカルな描写等による緩急の付け方――そのそれぞれが絶妙な形で絡み合い、漫画ならではの、漫画でしか描けない世界を、ここに生み出しているのには、感心させられるばかりです。


 そしてそんな本作ならではの物語の骨格となっているのが、ホームドラマとしての視点であります。

 すぐ上で述べたように、大きな歴史と小さな歴史――社会全体の歴史と個人の人生を時に並行して、時に重ね合わせて描く本作。
 もちろん社会を構成するのが個人であり、そしてその個人の集団の最小単位が家族であることを考えれば、これは当然の手法ではあるのかもしれませんが――しかしそれによって生み出される物語において、わかりやすさ、親しみやすさというものがこれほど大きくなるとは、正直なところ驚きであります。

 たとえば教科書などで見れば到底正気の沙汰とは思えぬ応仁の乱の有様。しかし新九郎や伊勢家――いやその乱の真っ只中に生きていた伊勢一家の視点から見れば、それがある種自然なものとして(あるいは不自然であってもその理由が)腑に落ちるのであります。
 その上で、第2巻で伊都が語る(彼女自身が理解する)「女の戦」や、第3巻で八郎を襲う骨肉の悲劇(とその根本にある確執)など、この時代ならではの人間像と個人の生き方を直結させ、ドラマとして――後者の衝撃的なあの場面のように絵の力を用いつつ――再構築してみせるのですから……

 実は歴史ものをマニア以外の層にまで届かせるのに最良の手段は、ホームドラマの要素を加える――そしてそれによって現代の我々との間に「共感」を生み出す――ことだと以前から考えておりましたが、本作はその最良の証拠といえるのではないでしょうか。


 さて、悲劇を経て新九郎も逞しく成長し、いよいよ次巻からは舞台を変えて新章に突入することになります(その直前に挿入される、彼の父もまた、自分自身の主であろうとしていたことを描く番外編もまた楽しい)。
 新九郎と彼の家族たちが、この混迷の時代の中でどこに向かうことになるのか――いよいよもって先が楽しみな作品であります。


『新九郎、奔る!』(ゆうきまさみ 小学館ビッグコミックス) 第2巻 Amazon / 第3巻 Amazon
新九郎、奔る!(2) (ビッグコミックス)新九郎、奔る!(3) (ビッグコミックス)

関連記事
 ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第1巻 ややこしい時代と世界を描く「漫画」の力

|

« さいとうちほ『輝夜伝』第4巻 二人天女、二人かぐや姫の冒険!? | トップページ | 『無限の住人-IMMORTAL-』 十五幕「臓承 ぞうしょう」 »