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2020.01.03

重野なおき『明智光秀放浪記』 光秀の点と線を結ぶ行動原理


 昨日も明智光秀を主人公としたクラシックな作品を紹介しましたが、本日ご紹介するのは光秀ものの最新の作品の一つ。あの『信長の忍び』のスピンオフとして、本編でも色々な意味で活躍している光秀の若き日の苦闘を描く物語であります。

 叔父の光安とともに、美濃の守護・土岐頼芸に仕えていた光秀。そこで下克上を起こした斎藤道三に才能を見出された光秀は、道三の下で才能を発揮することになります。
 美しい妻・煕子とドラマチックに結ばれ、それなりに満ち足りていたかに見えた光秀ですが、しかし道三と息子・義龍の血で血を洗う対立が勃発、道三側についた光秀は敗れた末に、叔父の犠牲でかろうじて落ち延びるのでした。

 かくて煕子とわずかな股肱の臣とともに放浪することとなった光秀。各地で見聞を広げながらも、理不尽な(?)理由でなかなか仕える相手に巡り会えないでいた光秀は、ようやく越前の朝倉義景に仕えることになるのですが――そこでも軽んじられ、軽輩として扱われるのでした。

 そんな中、越前に落ち延びてきた後の将軍義昭の一行。その中に、かつて京で出会ったことのある細川藤孝がいたことから、光秀の運命は大きく動き出すことに……


 『信長の忍び』本編では、苦労人で人はいいのに間が悪く、空気を読まない発言でツッコミを受けるキャラという印象の光秀。
 本作で描かれるそんな光秀の若き日の姿は、やはりツッコミどころは多いものの、妻と家臣のためにも懸命に仕える先を探す青年として描かれることとなります。

 もちろん、作品の冒頭やカバー裏でも触れられているように、史実では不明な点も多い光秀の放浪時代。それだけに本作は、史実の上で明らかな「点」を繋ぎ合わせて、一つの物語という「線」を描き出しているのですが――それは想像以上に端正で、説得力のあるものとして感じられます。

 その理由の一つは、本編で確立した光秀のキャラクター像を踏まえた物語運び――それももはや作者の自家薬籠中のものというべき四コマ歴史ギャグの呼吸による点が大きいでしょう。
 しかしそれ以上に、第1話のラストに語られる光秀の行動原理――「一族と家臣を大事にする」「才能を活かしてもらえる場所で働きたい」を柱として据えることで、物語にしっかりとした基盤を与えてみせた点に因るのではないでしょうか。

 もちろんそれは、後世の史実からの一種の逆算ではありますが、しかしこの原理があるからこそ、あり得たかもしれない歴史の姿が、実際にあったことのように――言い換えれば光秀を生き生きとした一人の人間として描き出すことに成功していると感じるのです。

 もっとも、作者の作品にはつきものの、定番ネタ、天丼描写――本作の場合は将来の謀反ネタと眼力ネタ――が、「いじり」のように感じられて、ちょっとひっかからないでもありません。
 しかしこの辺りはやはり四コマギャグといてはお約束の範囲内と理解するべきなのでしょう。たとえば、光秀が朝倉家でのつまらぬ毎日に、自分でもその目を(物理的に)閉じながら生きていたくだりなど、ギャグ漫画ならではの巧みな表現方法なのですから。


 放浪や苦労というと、どうしても真っ先に浮かんでしまうのは秀吉の名ですが、その彼に敗れた光秀もまた、決してそれにひけをとるものではなかった――四コマギャグを通じて、それを浮き彫りにしてくれた本作。
 スピンオフとしてだけでなく、「裏切り者」ではなく、戦国の世を懸命に生きた「人間」光秀を描いてみせた独立した作品として、しっかり楽しめた作品であります。


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