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2020.01.15

『妖ファンタスティカ2』(その四) 永井紗耶子・日野草


 操觚の会の伝奇アンソロジー『妖ファンタスティカ2』の紹介の最終回であります。後半に至りいよいよ盛り上がる本書ですが、その勢いはまだ続きます。

『精進池』(永井紗耶子)
 霧深い街を彷徨う中、見知らぬ酒場に踏み込んだ池端。そこで不思議な雰囲気の黒い服の男と出会った池端は、目の療養に向かった箱根で無数の石仏に囲まれた精進池という、静かでしかし不気味な雰囲気の池に出会い、そこで奇妙な体験をしたことを語ります。
 その話を聞いた男は、池端に精進池の由来を語るのでした。遙かな昔、精進池の畔で美しい女と出会ったある男の物語を……

 箱根に実在する精進池――作中で語られるように、周囲を磨崖仏に囲まれ、近くには八百比丘尼の墓まであるという奇妙なこの池にまつわる因縁を描く本作。
 「現在」に主人公が経験した奇妙な出来事と、「過去」に起きたという哀しい因縁話――精進池を中心に、二つの怪異がやがて一つに交わっていく構成の巧みさもさることながら、その物語を描く描写の美しさ、もの悲しさが素晴らしい作品であります。

 本作で語られる過去の物語は、基本的に実際に精進池に伝わるそれを敷衍したものなのですが、しかし「その先」を描くに、この描写の見事さは必要不可欠であり、そして物語の余情を高めていると言えるでしょう。
 作者には伝奇ものという印象は全くありませんでしたが、これは嬉しい驚きでした。狂言回し役の黒い服の男の存在も気になるところで、是非またこのような作品を読みたいと感じる名品です。


『ナイトイーグル』(日野草)
 急ぎの旅で夜行列車に飛び乗った前園警部補の前に現れた、謎めいた青年・昴。どうやら前園の娘を人質にとったらしい昴の課すミッションを果たすため、いつの間にか乗客がいなくなった列車の中を、前園は奔走することになります。
 その末にようやく一人の男と出会った前園。不審な態度を見せる男の正体は、そして昴は……

 本書で二つ目の現代ものである本作は、正直に申し上げて伝奇ものという点からすると疑問符はつくものの(間違いなくホラーではありますが)、しかし誰もが心当たりがあるであろう夜行列車の独特の空気――一種の物寂しさと人恋しさ、異界めいた雰囲気――を背景とした、謎めいた物語展開に大いに惹きつけられます。
 結末に明かされる昴の真実も胸締め付けられるようなものであり、文字通りの苦い結末が心に残る一編であります。


 以上十一編――前回の『妖ファンタスティカ』より二編減ってはおりますが、読み応えのある作品が増えた印象で、決して不足は感じません。

 しかし何よりも驚かされるのは、その執筆陣であります。何と今回と前回で重なるのは四名のみ――ゲスト参加を除いても、単純に六割の作者が初参加ということになるのであります。
 操觚の会の参加者は三十名強、前回と今回合わせてその2/3が登場したことになりますが、改めてその層の厚さに驚かされます。

 ちなみに今回は芦辺拓・安萬純一・獅子宮敏彦・高井忍といったの本格ミステリ勢(これは『ヤオと七つの時空の謎』勢かもしれませんが)の活躍が特に目に付いたところで、このような新しい流れの一端が垣間見えるのも楽しいところであります。

 「伝奇」とは何か、という定義は難しいところではありますが、この先も「伝奇ルネサンス」」の名の通り、伝奇ものを復権し、その新たな地平を切り拓く自由な場として、続いていってほしい企画であります。


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